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「消化器って術式が多すぎて、どこから覚えたらいいのか分からない」
消化器外科は、手術室でいちばん件数の多い診療科です。だからこそ新人のうちは、結腸切除・胃全摘・肝切除・PD…と名前ばかりが増えていって、頭の中がバラバラになりがちです。私もそうでした。
でも、部位ごとにまとめて眺めると、急に地図になります。「大腸の手術はこの並び」「肝胆膵はここが難所」と分かれば、次に入る手術がどのあたりに位置しているかが見えてきます。
このページは、これまで書いてきた消化器外科の記事を部位別に並べ直した目次です。気になるところから読んでください。明日入る手術がある方は、その術式だけ拾っていただいても大丈夫です。
大腸・直腸の手術
消化器外科でいちばん多く入るのが、この領域です。腹腔鏡が主流ですが、緊急や進行例では開腹になります。切る場所で血管と神経が変わるので、まずは右か左かを押さえるのが近道です。
腹腔鏡下右半結腸切除術
右側の結腸を切除する手術です。回結腸動脈・右結腸動脈といった血管を処理しながら、結腸を授動していきます。器械出しとしては、ポート挿入から腹腔内観察、術野展開、剥離、血管処理、吻合とフェーズがはっきり分かれるのが特徴です。どの段階にいるかを見失わなければ、次に出す器械は自然と決まります。右側は十二指腸が近く、剥離層を外すと出血するので、術者の手が止まったときは層を探していることが多いです。
下行結腸切除術(DST吻合)
左側の結腸を切除する手術です。右側との一番の違いは、守らなければならない神経があること。下腸間膜動脈の根部付近には自律神経が走っていて、ここを損傷すると排尿機能や性機能に影響が出ます。術者が慎重になる場面は、たいていここです。体位は砕石位をとることが多く、吻合はDST(ダブルステープリング)で行います。ステープラーの受け渡しが手際の見せどころになります。
ハルトマン手術とマイルズ手術
どちらも直腸を切除してストーマを作る手術ですが、肛門を残すかどうかが決定的に違います。ハルトマン手術は直腸を切除して口側をストーマにし、肛門側は閉じて温存します。将来つなぎ戻せる可能性が残ります。一方マイルズ手術(腹会陰式直腸切断術)は肛門ごと切除するので、ストーマは永久になります。会陰操作が入るぶん体位や術野の作り方も変わります。名前が似ていて混同しやすいので、比較表で覚えるのが早いです。
腹腔鏡下虫垂切除術(ラパロアッペ)
緊急手術として夜間に入ることが多い術式です。虫垂炎は進行度によって手術の中身がまるごと変わります。カタル性なら短時間で終わりますが、穿孔して膿瘍を作っていれば洗浄とドレーン留置が加わり、時間も器械も跳ね上がります。「アッペだから簡単」と構えていると足をすくわれます。若い患者さんが多いのも特徴で、不安の強い方が入室してくることも少なくありません。
大腸切除術の清潔・不潔操作とゾーニング
腸を切る手術は、清潔手術のまま終われません。腸管を開放した瞬間から不潔操作が始まり、そこで使った器械は汚染したものとして扱います。この切り替えを曖昧にすると、手術部位感染のリスクが上がります。器械台を「清潔ゾーン・不潔ゾーン・鋭利ゾーン」に分けておくと、迷いがなくなります。大腸に限らず、腸管を扱うすべての手術で効いてくる考え方なので、早めに身につけておくと楽です。
胃の手術
胃全摘術とルーワイ法(Roux-en-Y)再建
胃を全部取ったあと、食べ物の通り道をどう作り直すか。その答えのひとつがルーワイ法です。食道と空腸をつなぎ、消化液の流れを別ルートで合流させることで、逆流を防ぐ形にします。器械出しとしては「切除」と「再建」で必要なものがはっきり分かれるので、再建に入る前に吻合用の器械を整えておけると流れが止まりません。再建の図が頭に入っているかどうかで、先読みの精度が変わる術式です。
肝臓・胆道・膵臓の手術
消化器外科のなかでいちばん難度が上がる領域です。血管が密集していて、出血したときの勢いが違います。時間も長くなりがちなので、体位と除圧、そして途中での器械補充の段取りが効いてきます。
腹腔鏡下胆嚢摘出術(ラパコレ)
消化器外科の入口になる術式です。件数が多く、新人が最初に器械出しを任されることも多いと思います。ポート挿入、気腹、胆嚢管と胆嚢動脈の処理、胆嚢剥離という流れで、エネルギーデバイスの出番が多いのが特徴。短時間で終わるぶん、段取りが遅れるとすぐ手が止まります。気腹が患者さんの体に何を起こしているかまで分かっていると、外回りに回ったときの観察が変わります。
胆嚢摘出術を受けた患者さんの視点
こちらは術式解説ではなく、術後訪問で実際によく聞いた声をまとめたものです。手術室の中だけを見ていると、患者さんが退院後に何に困るのかは案外見えません。「胆石は女性に多い」と言われる理由が日本のデータではどうなのか、といった話も入れています。術前訪問で何を聞くか迷ったときや、病棟から手術室へ来た方に説明するときの材料になります。
肝切除術(肝右葉切除・肝部分切除)
肝臓は8つの区域で考える臓器です。どの区域を取るかで、処理する血管もアプローチも変わります。右葉切除のように大きく取る場合と、部分切除では準備するものがまるで違うので、術式名を正確に聞き取ることがそのまま準備の精度になります。実質の離断ではCUSAや止血材が次々に必要になるため、補充のタイミングを読めるかどうかが器械出しの腕の見せどころです。
腹腔鏡下肝切除術(ラパロ肝右葉切除)
同じ肝切除でも、腹腔鏡と開腹では出血への備え方が変わります。視野が限られるぶん、出血したときの対応が一段シビアになるので、開腹への移行を想定した準備を外回りが押さえておく必要があります。肝臓の手術を受ける患者さんは肝機能が落ちていることも多く、その背景まで知っておくと麻酔科の動きの意味が見えてきます。区域の解剖と合わせて読むと理解が進みます。
膵頭十二指腸切除術(PD)
消化器外科でもっとも時間のかかる手術のひとつです。膵頭部・十二指腸・胆管などをまとめて切除したあと、膵・胆管・消化管の3つをつなぎ直す再建が待っています。長くなる理由は、切除そのものより再建が3か所あること。切除が終わったところで気を抜かず、再建用の糸と器械を整え直せるかが分かれ目です。似た術式との違いを整理しておくと、指示を聞いた瞬間に準備が動けます。
拡大胆嚢摘出術(胆管がん・胆嚢がんの手術)
胆嚢がんや胆管がんでは、拡大胆嚢摘出・肝切除・PDを組み合わせて行うことがあります。3つの手術を同時に行うので、当然ながら準備する器械も物品も一気に増えます。「なぜ3つを同時にやるのか」を病気の側から理解しておくと、長時間の手術でも今どこにいるかを見失いません。準備物品のリストを事前に持っておくと、当日の焦りがかなり減ります。
ストーマ(人工肛門)の手術
人工肛門(ストーマ)造設術
ストーマには一時的なものと永久的なものがあり、さらに単孔式と双孔式という作り方の違いがあります。この2軸が分かっていないと、術野で何をしているのかが読めません。回腸で作るか結腸で作るかでも、その後の管理が変わります。造設の位置は術前にマーキングされていることが多く、外回りはそこを消毒で消してしまわないよう気をつける必要があります。
人工肛門閉鎖術
作ったストーマを元に戻す手術です。誰でも戻せるわけではなく、適応と時期があります。造設術とセットで読むと、「なぜあのとき一時的ストーマにしたのか」がつながります。ストーマ周囲の皮膚を切開して腸管を授動し、吻合して閉じるという流れですが、周囲は癒着していることが多く、剥離に時間がかかります。皮膚の閉じ方が感染に直結する術式でもあります。
ヘルニアの手術
腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術(TAPP・TEP)
術式の呼び名がいくつもあって、新人がつまずきやすいところです。腹膜を開けてアプローチするTAPPと、腹膜の外側から入るTEP、そして開腹法。まずこの3つを区別できると混乱しなくなります。鼠径部の解剖は「3つの出口」で整理すると頭に入ります。メッシュの扱いは清潔面でも器械出しの段取りの面でも重要で、広げ方や固定の仕方に術者ごとの好みが出やすい部分です。
消化器外科で使う器械・デバイス
術式を覚えるのと並行して、どの手術でも共通して出てくる器械を押さえておくと上達が早くなります。ここが固まると、初めての術式でも半分は手が動きます。
メスとエネルギーデバイス
替刃メスの安全な渡し方は、器械出しで最初に覚える手技のひとつです。刃物事故はお互いの手が重なったときに起きるので、相手が握る場所に自分の指を置かないという一点に尽きます。あわせて電気メスやリガシュアといったエネルギーデバイスの基本も整理しました。消化器外科は切離と止血の連続なので、デバイスの特性を知っているかどうかが段取りの速さに直結します。
鉗子・鑷子(ペアンとコッヘルの違い)
新人が最初につまずくのが、ここです。ペアンとコッヘルは見た目がほとんど同じで、先端に鉤があるかないかの違いしかありません。よく見ないと区別できないので、実物を手に取って覚えるのがいちばん早いです。鑷子は有鉤と無鉤で用途が分かれます。渡し方については、鉗子類より鑷子のほうが難しいと感じる人が多いはずです。術者の手に上から乗せる形になるので、イメージが掴みにくいんですね。
ステープラー(自動吻合器・縫合器)
消化管をつなぐ・閉じる場面で必ず出てきます。覚えどころはカートリッジの色と組織の厚さの対応。色を間違えると縫合不全につながるので、出す前に術者と声に出して確認します。もうひとつ大事なのが、ファイヤリングの前に数秒待つこと。組織の水分を逃がしてから撃つことで、ステープルのかかりが変わります。急かさないことも器械出しの仕事です。
CUSA(超音波手術器)
肝切除で実質を離断するときに使う機械です。組み立てとセッティングでつまずく人が多いので、外回り・器械出しのそれぞれの手順を図で整理しました。手術が始まってから慌てないよう、流れを一度通しで頭に入れておくと安心です。肝臓の手術に入る予定がある日は、前日にここだけ読み返しておくと落ち着いて臨めます。
開腹手術の器械出しチェックリスト
術式が何であれ、開腹手術の序盤の流れは共通しています。皮膚切開、筋層切開、腹膜切開、腹腔内観察、術野展開。ここで流れに乗れるかどうかで、その後の手術全体の手際が決まります。逆に言えば、序盤さえ押さえておけば初めての術式でも入口は同じです。1枚にまとめてあるので、開腹の予定が入った日に見返す用として使ってください。
もう少し踏み込んで学びたいときに
ここに並べた術式のいくつかは、YouTubeで時間をかけた解説動画も出しています。記事だけで現場は回りますが、「手順は分かったけれど、実際の動きが見たい」というときは動画のほうが早いことがあります。
一部はメンバーシップ向けに公開しています。必要になったときに覗いてもらえたら嬉しいです。
どこから手をつけるか迷ったら
術式を全部覚えようとすると、たいてい途中で息切れします。私がおすすめするのは、この順番です。
- 明日入る手術から読む。目の前にある一例が、いちばん記憶に残ります
- 次に器械・デバイスの記事を通しで読む。どの術式でも効くので、投資効率が高いです
- そのうえで件数の多い大腸の手術を押さえる。右と左の違いが分かると一気に世界が広がります
- 肝胆膵は、その後で大丈夫です。難しいのは当たり前なので、焦らなくていいです
消化器外科は件数が多いぶん、同じ術式に何度も入れるのが強みです。一度で覚えられなくても、次があります。私も新人の頃は結腸切除の右と左が何度も混ざりました。
今日つまずいたところを1つだけ復習する。それを続けていれば、半年後には「次に何を出すか」が体で分かるようになります。このページは、その復習の入口として使ってもらえたら嬉しいです。
























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