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「手術は明日の朝」。ベッドの上でスマホを握って、「胆嚢摘出 術後」「胆嚢 取っても大丈夫」と検索している——この記事にたどり着く方の多くが、そういう夜を過ごしています。
調べれば調べるほど、知らない言葉が増えて、不安だけが積み上がっていく。その感じ、よくわかります。
わたしは手術室の看護師を10年しています。胆嚢摘出術(腹腔鏡下胆嚢摘出術・通称ラパコレ)は、その10年でいちばん多く立ち会った手術のひとつです。器械出しとして術野のすぐ横に立ち、外回りとして麻酔から目が覚める瞬間まで付き添い、翌日には病棟へ術後訪問に伺って「実はここが痛かったんです」という話も聞いてきました。
この記事では、その10年で実際に見て・聞いてきたことを、公的なガイドラインの数字と一緒に書いています。手術を受ける方、ご家族、そして胆摘の患者さんを初めて受け持つ1年目の看護師さん——それぞれが知りたいところまで、まっすぐ書きました。
この記事でわかること
- 手術のあと、体に何が起きるのか(実際に多い5つの声)
- おへその傷と右肩の痛みは、なぜ起きるのか
- 「胆石は女性に多い」は本当か——日本のデータで確認
- 手術室の中で、その1〜2時間に起きていること
- 退院後の食事・仕事復帰と、すぐ受診してほしいサイン
- 【看護師の方へ】胆摘の患者さんを初めて受け持つときの観察ポイント
胆嚢摘出手術のあと、体はどうなる?術後訪問で実際に多かった5つの声

術後訪問というのは、手術室の看護師が翌日以降に病棟へ行き、「昨日の手術、どうでしたか」と患者さんに直接お話を伺う時間のことです。麻酔から覚めたあとの本音が聞ける、貴重な場面でもあります。
胆嚢摘出術の患者さんから、特によく聞いてきた声が次の5つです。
- 「おへその傷が、いちばん痛かった」
- 「なぜか右の肩が痛くて、湿布を貼りたくなった」
- 「傷跡が心配だったけど、思ったより小さかった」
- 「食後にお腹がゆるくなることがある」
- 「胆嚢って、取ってしまって大丈夫なんですか?」
ひとつずつ、「なぜそうなるのか」から説明していきます。理由がわかると、同じ痛みでも受け止め方が変わります。
① おへその傷がいちばん痛いのは、そこが「出口」だから
腹腔鏡手術では、お腹に小さな穴を4か所ほど開けて、カメラと細い器具を入れます。「小さい穴が4つなら、痛みも4等分」と思われがちですが、実際はおへその傷だけが群を抜いて痛むことが多いです。
理由はシンプルで、取り出した胆嚢が通るのが、おへその傷だからです。
胆嚢は、体の中で専用の袋に入れてから、おへその穴を通して外に出します。石が大きかったり数が多かったりすると、袋がなかなか通らず、穴を少し広げることもあります。他の3か所が「器具を差し込むだけの穴」なのに対して、おへそは唯一、物が通り抜けた場所。痛みの差はここから来ています。
おへそはもともと皮膚が薄く、脂肪の層がほとんどありません。すぐ下が筋膜(お腹の壁を支える丈夫な膜)で、そこをしっかり縫い閉じます。咳やくしゃみ、起き上がる動作で響くのは、この筋膜の縫合部が引っぱられるからです。
起き上がるときは、いったん横を向いてから、腕の力で体を起こすと、お腹に力が入りにくくて楽になります。咳が出そうなときは、たたんだタオルやクッションをお腹に軽く押し当ててから。これだけで痛みの響き方がずいぶん違います。
そして——痛み止めは、我慢してから使うものではありません。「もう少し我慢できるかも」と粘る方がとても多いのですが、痛くて動けないと回復が遅れます。痛みが弱いうちに使ったほうが、少ない量でよく効きます。遠慮せず、看護師に伝えてください。
② 右肩が痛むのは、肩ではなく「横隔膜」が原因
「手術したのはお腹なのに、なぜか右の肩や背中が重だるい」。これは、経験した方でないとまず予想できない症状だと思います。
原因は、手術中にお腹をふくらませる炭酸ガス(二酸化炭素)です。
腹腔鏡手術では、お腹の中に炭酸ガスを入れて、内側から風船のようにふくらませます。そうしないとカメラで見る空間がつくれないからです。このガスが手術後もわずかに残り、お腹の天井にあたる「横隔膜」を刺激します。
そして横隔膜を支配している神経(横隔神経)は、首のあたりから出ています。首から出た神経が刺激されると、脳はその信号を「肩のあたりの痛み」として受け取ってしまう。これが、お腹の手術で肩が痛くなるからくりです。医学的には「関連痛」と呼ばれます。
決して珍しい症状ではありません。婦人科の腹腔鏡手術319例を調べた報告では、18.2%(58例)に術後の肩の痛みが出たとされています。5〜6人に1人の割合です。
残ったガスは、体に自然に吸収されて消えていきます。多くは1〜2日でおさまるので、湿布や肩のマッサージよりも、歩くことのほうが効きます。体を起こして動くとガスが移動して、横隔膜への刺激が減るからです。
③ 傷跡は、時間が味方をしてくれる
「跡が残りますか」は、特に女性の患者さんから必ずと言っていいほど聞かれる質問です。
腹腔鏡手術の傷は、ひとつひとつが数ミリから2cm程度。しかも、おへその傷はもともとのくぼみに隠れるように作るので、治ってしまえば見つけるほうが難しいくらいになります。
術後すぐは赤く盛り上がって見えます。これは治りかけの正常な姿で、数か月かけて少しずつ白く平らになっていきます。「退院のときの見た目が最終形」ではありません。
ひとつだけお願いがあります。傷が落ち着くまでの数か月は、紫外線に直接あてないこと。日焼けは傷跡の色素沈着を濃くします。海やプールに行く季節なら、テープや衣服で隠すだけで仕上がりが変わります。
④ 食後にお腹がゆるくなる——これは「一時的」とは限らない
ここは、ネット上の情報がいちばん実際とずれているところなので、正直に書きます。
胆嚢は、肝臓が作った胆汁をためて濃くしておく「貯金箱」のような臓器です。摘出すると貯金箱がなくなり、胆汁が薄いまま、少しずつ腸に流れ続ける状態になります。この変化が、食後の下痢やお腹の張りにつながることがあります。
日本消化器病学会の胆石症診療ガイドライン2021では、腹腔鏡下胆嚢摘出術のあと、約30〜40%の方に下痢・腹部膨満感・嘔気などの症状が長期的に残ると報告されています。決して「まれな副作用」ではありません。
よく「3か月ほどで治ります」と書かれていますが、同じガイドラインでは、大腸を便が通過する時間が手術前より短くなり、その変化が術後少なくとも4年続くという報告も紹介されています。数か月ですっきり戻る方もいれば、長くつきあう方もいる、というのが正確なところです。
ただし、怖がる必要はありません。同じガイドラインは「胆嚢を摘出することで消化吸収の機能が落ちる、という明らかな証拠はない」ともはっきり述べています。栄養が取れなくなるわけでも、体が弱るわけでもない。多くの場合、脂っこい食事の量とタイミングを調整すれば、日常生活は問題なく送れます。
- 天ぷら・揚げ物・脂身の多い肉は、一度にたくさんではなく少しずつ
- 食後すぐに動き回らず、少し休む
- 症状が続くなら、胆汁の流れを整える薬もあります。主治医に相談してください
⑤ 「胆嚢って、取ってしまって大丈夫なんですか?」
手術室でも、麻酔がかかる直前にこの質問をされることがあります。
答えは、大丈夫です。胆汁を作っているのは肝臓であって、胆嚢ではありません。胆嚢はためて濃くする役割なので、なくなっても胆汁そのものは作られ続けます。
むしろ、石が入ったまま炎症を繰り返している胆嚢を残しておくほうがリスクになります。痛みの発作を繰り返す、胆管に石が落ちて黄疸になる、膵炎を起こす——そうした事態を防ぐために、取るという判断がされています。
④で書いたようなお腹の症状は起こりえます。それでも、「痛みの発作におびえなくてよくなった」と言われる方のほうが、わたしが会ってきた中では、ずっと多いです。
「胆石は女性に多い」は本当?——日本のデータは少し違います
この記事にたどり着く方の検索キーワードで多いのが、「胆嚢摘出 女性に多い」です。まず、よく言われる説明から。
世界的には「5F」——たしかに女性はリスクが高い
胆石のなりやすさを表す言葉に、古くから「5F」があります。
- Forty(40代以降)
- Female(女性)
- Fatty(肥満)
- Fair(白人)
- Fertile(妊娠・出産の経験)
胆石症診療ガイドライン2021でも、この5Fは「依然として強い危険因子」と位置づけられています。
女性ホルモンが関わる仕組みも説明されています。妊娠や長期間の経口避妊薬の使用が、胆汁の成分に影響してコレステロールを固まりやすくする。加えて妊娠中は胆嚢の収縮する力が落ちるため、胆汁が滞りやすくなります。ためて出すという胆嚢の仕事が滞ると、中身は石になりやすい。理屈としては、とても自然な話です。
ところが、日本の全国調査では男女比が逆転している
ここからが、あまり知られていない部分です。
日本胆道学会が2013年に行った全国調査では、胆嚢結石の男女比は1:0.90。つまり男性のほうがやや多いという結果でした。胆石全体で見ても、男性の比率のほうが高くなっています。
胆石症診療ガイドライン2021も、5Fを挙げたうえで「ただし日本の全国調査の結果では男女比が逆転している」と明記しています。
背景にあるのは、日本人の食生活の変化と、肥満人口の増加です。特に男性の肥満が増えていることが指摘されています。「胆石=中年女性の病気」というイメージは、いまの日本ではもう正確ではない——これは、手術室に立っていても実感するところです。胆摘の手術台に横になっているのは、男性も女性も、同じくらいいます。
ですから、「女性に多いと聞いたのに、なぜ自分が」と感じている男性の方。あなたは例外ではありません。
そもそも、どういう人が手術になるのか
胆石があるからといって、全員が手術になるわけではありません。ここは誤解の多いところです。
ガイドラインによれば、胆嚢結石の60〜80%は無症状。健診のエコーで偶然見つかるパターンです。そして症状が出てくるのは1年に2〜4%ほどで、無症状の方の3分の2は生涯症状が出ないまま過ごせるとも考えられています。
そのため、症状のない胆石に予防的な手術をする意義は少ないというのがガイドラインの推奨です。「石があります」と言われただけで手術になった、という話にはならないのが普通です。
一方、症状が出た場合の基本の治療は胆嚢摘出術です。2013年の全国調査で、治療を受けた胆嚢結石症439例の初めの症状を見ると——
- 腹痛・背部痛:57.1%
- 発熱:9.5%
- 悪心・嘔吐:7.5%
- 黄疸:3.3%
- 症状なし(検診など):34.9%
また、発作のときには約60%の方が右の肩甲骨から肩にかけての痛みを感じるとされ、多くは食後数時間で起こり、脂っこい食事がきっかけになりやすいと報告されています。「背中が痛くて整形外科に行ったら胆石だった」という話が出てくるのは、このためです。
手術室の中では、何が起きているのか——10年見てきた1〜2時間

患者さんにとって、手術室は「入って、眠って、気づいたら終わっている」場所です。その空白の時間に何が行われているのか、手術室側から見た景色を書きます。
入室から麻酔まで
手術室に入ったら、まずお名前と生年月日をご自身で名乗っていただきます。何度も聞かれてうんざりするかもしれませんが、これは患者さんを取り違えないための、いちばん確実な方法です。
手術台は、思ったより狭くて硬く、そしてひんやり冷たいです。緊張しているところに冷たさが加わると、震えが出ます。寒いときは遠慮なく言ってください。温かい毛布をかけるのは、外回り看護師の大事な仕事です。
点滴から麻酔の薬が入り、酸素マスクをあてて「深呼吸してくださいね」と声をかけます。ここから眠るまでは、だいたい10秒から30秒。ほとんどの方が「あれ、まだ?」と思っている間に眠っています。
体位づくりと、お腹をふくらませるところ
眠ったあと、手術しやすいように体の向きを整えます。胆嚢は肝臓の下に隠れているので、頭側を少し上げて、体を左に傾けるのが基本です。こうすると腸が下がって、胆嚢が見えやすくなります。
この体位づくりは、外回り看護師がいちばん神経を使う場面のひとつです。傾けた体がずれないように支え、神経が圧迫される場所、皮膚が長時間押される場所をひとつずつ確認します。手術は1〜2時間。その間ずっと同じ姿勢なので、ここを雑にすると、術後にしびれや痛みが残ることがあります。
その後、おへそから細い管を入れて炭酸ガスを送り込み、お腹をふくらませます。②で書いた肩の痛みの正体は、このガスです。
胆嚢を切り離して、袋に入れて取り出す
カメラと器具を入れたら、胆嚢の周りの脂肪や膜をていねいに剥がしていきます。ここでいちばん大切なのが、胆嚢につながる管(胆嚢管)と血管(胆嚢動脈)を、確実に見分けることです。
というのも、すぐ近くに総胆管という、肝臓から十二指腸へ胆汁を運ぶ本管が走っています。これを胆嚢管と間違えると重大な合併症になるため、外科医は視野を作り、確認し、また確認して——という作業を繰り返します。手術時間の多くは、切るためではなく、確かめるために使われています。
見分けがついたら、管と血管をクリップで留めて切り離し、胆嚢を肝臓のくぼみから電気メスで剥がしていきます。剥がし終えた胆嚢は専用の袋に入れて、おへその穴から取り出します。石をお腹の中にこぼさないための工夫です。
最後にお腹の中を洗い、出血がないか確認して、必要に応じてドレーン(浸出液を体の外に出す細い管)を入れ、傷を閉じて終了です。ドレーンは入れる場合と入れない場合があり、炎症が強かったときほど入る傾向があります。
正直にお伝えしておきたい数字
胆嚢摘出術は非常に多く行われている手術ですが、「絶対に安全」という手術は存在しません。日本内視鏡外科学会が2017年に行った調査では、腹腔鏡下胆嚢摘出術における合併症の頻度は次のように報告されています。
- 胆管の損傷:約0.4%
- 開腹手術への移行が必要になる出血:約0.3%
- その他の臓器の損傷:約0.3%
数字にすると1000人に3〜4人。低い確率ですが、ゼロではありません。だからこそ手術室では、炎症が強くて危険だと判断されれば、ためらわず開腹手術に切り替えます。
これは「失敗」ではありません。無理に腹腔鏡で続けるほうが危険だという判断であり、いちばん安全な道を選んだ結果です。同意書の説明で「開腹に移行する可能性があります」と書かれているのは、そういう意味です。
腹腔鏡下胆嚢摘出術そのものについては、器械出しの流れまで含めてラパコレ(腹腔鏡下胆嚢摘出術)の手術手順を解説した記事でくわしく書いています。
退院してから、よく聞かれること
食事はいつから、何を気をつける?
施設や術後の経過によりますが、手術当日の夕方から翌日にかけて水分が始まり、そのあと食事へ進むことが多いです。最初はおかゆなどから、徐々に普通の食事へ戻していきます。
退院後については、「一生、脂を控えなさい」ということではありません。前述のとおり、消化吸収の機能そのものが落ちるという明らかな証拠はないからです。
気をつけたいのは、量とタイミング。退院して数週間は、揚げ物や脂身の多い肉を一度に大量に食べると、お腹がゆるくなることがあります。「食べてはいけない」ではなく、「少しずつ試して、自分の体の反応を確かめる」のがおすすめです。
仕事にはいつ戻れる?
デスクワークであれば術後1〜2週間で復帰される方が多いです。ただし、重い物を持つ仕事や力仕事は別で、おへその傷は筋膜を縫った場所なので、早すぎる負荷は傷が弱くなる原因になります。必ず主治医に確認してください。
お風呂と傷のケア
シャワーは、多くの場合手術の翌日から翌々日には許可されます。傷は石けんの泡でやさしく洗って、しっかり流し、押さえるように拭く。ゴシゴシこすらないでください。
湯船につかるタイミングは施設によって指示が違うので、退院時の説明に従ってください。
退院後、すぐに病院へ連絡してほしいサイン
- 38℃以上の熱が出た、または熱が下がらない
- 白目や皮膚が黄色い/尿が濃い茶色になった
- お腹の痛みが日ごとに強くなる(ふつうは日ごとに楽になります)
- 傷が赤く腫れて熱を持つ、膿のような汁が出る
- 吐いてしまって水分がとれない
「これくらいで連絡していいのかな」と迷ったときは、連絡してください。空振りで安心できるほうが、ずっといいです。
🩺 ここからは看護師さん向けです
患者さん・ご家族の方はここまでで大丈夫です。ここから先は、胆嚢摘出術の患者さんを初めて受け持つ1年目看護師さんに向けて、術前・術直後・退院指導で押さえるポイントをまとめました。
【看護師向け】胆嚢摘出術の患者さんを初めて受け持つ1年目さんへ
ラパコレは「よくある手術」「軽い手術」と言われがちです。だからこそ1年目さんが最初に受け持つことも多く、そして「軽い手術」という思い込みがいちばん危ないのもこの術式です。押さえるポイントを絞って書きます。
術前——確認しておきたいこと
- 抗凝固薬・抗血小板薬の休薬状況。指示どおり止められているかは必ず確認
- これまでの発作の様子(いつ・何を食べて・どこが痛くなったか)。術後の痛みが「手術の痛み」か「前と同じ痛み」かを判断する基準になります
- 黄疸の有無と直近の採血データ(T-Bil・AST/ALT・ALP・γ-GTP・アミラーゼ)。総胆管結石が隠れていないかの目安
- 臍の清潔。おへそは汚れがたまりやすく、ここがカメラの挿入口かつ摘出口になります
- 絶飲食の時間、義歯・貴金属、アレルギー、既往の手術歴(腹部手術歴があれば癒着で難易度が上がります)
術前訪問で何を聞き、どう記録につなげるかは術前訪問・術後訪問の目的と流れをまとめた記事で詳しく解説しています。
術直後——痛みは「どこが痛いか」で分けて聞く
ここがいちばんのポイントです。術後の痛みをひとくくりに「創部痛」と記録しないでください。部位によって意味がまったく違います。
- 臍部の痛み:想定内。摘出口であり筋膜を縫っている場所。体動時に強くなるのが典型
- 右肩・肩甲骨の痛み:残存した炭酸ガスによる関連痛。想定内で、離床で軽くなる。鎮痛薬より歩行が効きます
- 腹部全体が張って、時間とともに強くなる痛み:要注意。出血や胆汁漏の可能性を考えます
- 右季肋部の持続する強い痛み+発熱:要注意。医師へ報告
「痛みが日ごとに軽くなっているか」が、いちばん実用的な物差しです。昨日より今日のほうが痛い——このひと言を拾えるかどうかで、発見の早さが変わります。
見逃してはいけないサイン
頻度は高くありませんが、起きたときのインパクトが大きいのが術後出血・胆汁漏・胆管損傷です。次の組み合わせを覚えておいてください。
- 頻脈+血圧低下+冷汗、ドレーン排液が鮮血様に変化 → 術後出血を疑う
- ドレーン排液が黄色〜緑色(胆汁様)に変わる、腹痛の増強、発熱 → 胆汁漏を疑う
- 黄疸・褐色尿・T-Bil上昇 → 胆管損傷や遺残結石を疑う
- 創部の発赤・腫脹・熱感・膿性の浸出 → SSI(手術部位感染)を疑う
ドレーンが入っていない患者さんも多いので、「ドレーンがないから情報が減る」ぶんを、バイタルと痛みの経過、腹部の観察で埋める意識を持ってください。ドレーンの見方そのものはドレーン管理の記事にまとめています。
離床・食事——「早く歩く」には理由がある
離床は、術後合併症を防ぐためだけの声かけではありません。胆摘の患者さんにとっては、肩の痛みを軽くする、いちばん確実な方法でもあります。
「歩くと痛いから嫌だ」と言われたときに、「歩くと、その肩の痛みが楽になりますよ」と理由を添えられると、患者さんの反応は変わります。理由のない励ましは届きませんが、理由のある提案は届きます。
食事開始後は、脂質を含む食事を食べたあとの反応を見ておきましょう。ここでの様子が、そのまま退院指導の材料になります。
退院指導で、必ず伝えたい3つ
- 下痢は起こりうるし、恥ずかしいことではない——約30〜40%に長期的な腹部症状が残ると報告されています。「異常ではないが、続くなら相談してよい」と伝える
- 脂を一生断つ必要はない——量とタイミングの調整であること。過度な制限はQOLを落とします
- 受診すべきサイン——38℃以上の発熱、黄疸、日ごとに強くなる腹痛。ここは具体的な数字で伝える
手術室側から、ひとつだけ
もしあなたが手術室の1年目なら、器械出しで覚えておいてほしいのは「クリップの前に手が止まる時間がある」ということです。
胆嚢管と胆嚢動脈を確実に見分けるまで、外科医は切りません。その静かな時間に器械を急いで差し出す必要はなく、クリップと剪刀、そして必要なら術中胆道造影の準備を頭の中で並べておく。手が止まっている時間こそ、いちばん危ない場所を通っている時間だと思って見ていてください。
まとめ——今日から、できること
最後に、この記事の要点を整理します。
- おへその傷がいちばん痛いのは、そこが胆嚢の出口だから。起き上がり方の工夫と、早めの痛み止めで乗り切れます
- 右肩の痛みは炭酸ガスによる関連痛。5〜6人に1人に起こり、1〜2日で消えます。湿布より歩くこと
- 「胆石は女性に多い」は世界的なリスク因子としては本当。ただし日本の2013年全国調査では男女比1:0.90で、男性のほうがやや多い
- 術後の下痢は約30〜40%に起こりうる。ただし消化吸収機能が落ちる明らかな証拠はなく、量とタイミングの調整で日常生活は送れます
- 発熱・黄疸・日ごとに強くなる腹痛は、迷わず連絡
手術を控えている方へ。不安な夜に検索した情報の中で、この記事が少しでも「そういうことだったのか」と思えるものであったなら、書いた意味があります。
手術室では、あなたが眠っている間、名前の確認から体の向きひとつまで、たくさんの人が手を尽くしています。安心して、眠ってきてください。
看護師さんへ。「よくある手術」の受け持ちほど、観察の質が試されます。昨日より今日のほうが痛い——その一言を拾えるあなたが、患者さんにとっていちばん心強い看護師です。
参考文献
- 日本消化器病学会編.胆石症診療ガイドライン2021(改訂第3版).南江堂;2021.
- 急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン改訂出版委員会編.急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン2018(TG18新基準掲載)第3版.医学図書出版;2018.
- 上森照代,米田由香里,和田俊朗.婦人科腹腔鏡手術後の肩痛に関する検討.宮崎県医師会誌 2015;39:14-18.
- 小西敏郎監修.オペナースのための予習用術式マニュアル(オペナーシング2023年秋季増刊).メディカ出版;2023.
🍈 自分の体に何をされたのか、実際の流れを見てみませんか
胆のうをどう外して、どこから取り出すのか。手術室の中で行われていることを、実演で最初から最後までたどっています。もともとは看護師向けに作った動画ですが、受ける側にとっても「何をされるのか」が一番わかる1本です。
▶ 胆嚢摘出術ライブ実演!胆のう手術の流れを解説眠っている間のことが気になる方は、こちらもどうぞ。
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