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「手術室看護師に向いてないかもしれない」。外回りで優先順位をつけられなかった日、インシデントを起こしてしまった日、急変時に体が動かなかった日。そんな夜、布団の中で何度もそう思ったことはありませんか。先輩とスムーズに動けている同期を見て、うらやましさと情けなさが混ざったような気持ちになることもあるはずです。
私は手術室看護師として10年働き、同じように「向いてない」と落ち込んだ夜を何度も経験しました。この記事では、その感覚の正体、今夜からできる対処、そして10年続けて見えてきた「向いている・いない」を分ける本当の基準を、実体験からお伝えします。
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なぜ、あの日「向いてない」と思ったのか
「向いてない」と感じる瞬間は、人によって違うようで、実はよく似ています。外回り看護で、入室から動き出すときに優先順位をつけられなかったとき。患者さんに必要な看護がまだ見えておらず、手が足りていないと感じたとき。周りの先輩とうまく息を合わせられず、チームから置いていかれるような感覚になったとき。そしてインシデントを起こしてしまったとき、術中の急変で次に何をすべきか分からず立ち尽くしてしまったとき。私自身、この4つの場面すべてで「向いてない」と思いました。
追い打ちをかけるのが、同期との比較です。同じ手術室に配属された新卒同期と一緒に働く機会は多くありませんでしたが、救急など他部署での経験を積んだ先輩が急変対応にすっと動くのを見ると、「すごいな、うらやましいな」と感じずにはいられませんでした。
そういう日は、家に帰ってからもしばらくぼーっとしてしまいます。くよくよ引きずるタイプだったので、早めに布団に入って、そのまま寝落ちしてしまうことも一度や二度ではありません。もし今、同じような夜を過ごしているなら、それはあなたが特別に弱いからではありません。
新人の頃は本当にポンコツで、毎日泣きながら帰っていたと言えるくらい、聞き慣れない専門用語や先輩の動きの速さに圧倒される日々でした。休みの日は分厚い解剖の教科書を開いたまま、そのまま寝落ちしてしまうこともありました。それでも辞めなかったのは、特別な自信があったからではありません。

その日をどう終えるかで、翌日が変わる
結論から言うと、うまくいかなかった日の夜に、無理に答えを出そうとしなくて大丈夫です。疲れて感情が揺れているときの振り返りは、自分を責めるだけで終わってしまうことが多いからです。
私が実際にしていたのは、その日のうちに「何が起きたか」だけを短く書き留めておくことでした。「なぜできなかったのか」「自分はダメだ」ではなく、事実だけを残しておきます。良し悪しの判断は、頭が落ち着いてからで十分です。
そして、その夜はしっかり眠ることを優先しました。寝不足のまま同じ場面を繰り返し思い出しても、新しい発見は生まれません。翌日以降、少し気持ちが落ち着いてから、書き留めたメモを見返す。このひと呼吸が、次に説明する「振り返り」につながっていきます。
書き留める内容は、シンプルで構いません。「いつ・どの場面で・何が起きたか」を3行程度でメモするだけです。「自分はダメだ」といった感情の言葉は書かず、事実だけを残します。翌日以降、頭が落ち着いてからこのメモを読み返すと、その日は見えなかった原因に気づけることがあります。
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「向いてない」ではなく、振り返りきれていなかっただけ
10年働いてたどり着いた結論はこうです。あの頃の私は「向いていなかった」のではなく、その場面を振り返りきれていなかっただけでした。振り返りとは、うまくいかなかった理由を自分の中から見つけて、次の行動につなげる作業です。これを飛ばしてしまうと、失敗の記憶だけが積み重なり、「向いてない」という感覚に変わっていきます。
自分の場合を掘り下げてみると、「周りに確認せずに自己判断してしまう癖」があることが見えてきました。さらに一歩深掘りすると、その根っこにあったのは「分からないことを、分からないと言えない」「先輩に質問すること自体への苦手意識」でした。
「今更そんなことも分からないの?」と思われるのが怖い。「自分で調べるべきことだよね」と言われるのが怖い。そう思うほど、分からないまま、自信がないまま動いてしまい、その先に待っているのはインシデントや良くない結果でした。患者さんの安全も保たれません。
こうした「自分なりの癖」は、誰にでもあります。大切なのは、癖のせいで自分を責め続けることではなく、癖を認めたうえで、行動をどう変えるかを考えることです。私の場合は、「一時的に怒られても、嫌な気持ちになっても、分からないことは先に聞いて解決してから動く」と決めることで、少しずつ変わっていきました。
手術室は、限られた時間の中で、器械・術式・執刀医の癖まで覚えることが求められる、看護の中でも特殊な環境です。ロボット支援手術のように、数年単位で新しい機器が入ってくることも珍しくありません。覚えることの絶対量が多い部署に配属されただけで、「向いてない」と感じやすくなるのは、あなたに限った話ではないのです。

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「向いている人」と「合わない人」を分けていたのは、業務のうまさではなかった
「向いてるかも」と自信を持って言えることは、10年たったいまもありません。それでも、器械出しをしながら執刀医が次に求める器械を先読みできた瞬間、教科書ではなく自分の目で解剖を確かめられた瞬間、術前訪問で患者さんに手術の内容をかみ砕いて伝えられた瞬間には、たしかな手応えがありました。「向いている」と思える日は来なくても、「役に立てた」と思える瞬間は積み重なっていきます。
10年の間に、多くの後輩が辞め、多くの後輩が残っていくのを見てきました。向いている人の共通点は、手先の器用さでも、覚えの早さでもありません。①振り返りをしっかり行える人、②手術看護の勉強が苦にならない人、③手術室の中に自分なりの看護の役割を見出せる人。この3つでした。
反対に「向いていない」というより「合わない」だけの人もいます。入院患者さんと長く関わる看護に魅力を感じている人や、手術看護以外にやりたい看護がすでにはっきりしている人です。これは優劣ではなく、単純に相性の違いです。
一方で、業務そのものが完全に得意だったわけではなくても、スタッフ同士のやりとりに楽しさを見出せた人は、結果的に続いていました。「向いてないと思っていたけど、この人たちと働くのは楽しいから続けよう」。そう思えた人は、辞めずに残っていく印象があります。
反対に辞めていったのは、手術看護以外にやりたい看護がはっきりしていた人、そして人間関係の悩みを抱え続けた人でした。業務の得意・不得意より、人とのつながり方のほうが、続けられるかどうかを大きく左右していました。
不器用でも、覚えるのが遅くても、それ自体は致命的ではありません。手先の器用さより、自分なりにどう工夫して復習し、実践していくかのほうが重要です。段ボールで解剖模型を作って自主練習するような、自分に合った勉強のやり方を見つけられるかが分かれ道になります。

おわりに|今夜、向いてないと感じているあなたへ
「向いてない」と思った夜のことを、私はいまも覚えています。でも10年の経験を振り返っていま分かるのは、あの感覚は適性の証明ではなく、振り返りが追いついていなかっただけのサインだったということです。
今は自信が持てなくても、点と点だった知識や経験が、ある日ふとつながる瞬間が来ます。「あ、これができるかもしれない」。そう思える日は、焦らず一歩ずつ振り返りを重ねた人にだけ訪れます。今夜のあなたにも、きっとその日が来ます。
1年目でも、3年目でも、5年目でも、「向いてない」と感じる時期はやってきます。その感覚は、いつの経験年数であっても、あなたを否定する材料にはなりません。今日の失敗を書き留め、明日、少しだけ振り返ってみてください。




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