※医療・看護ケアは各施設の方針に従ってください。手順・使用器械は施設により異なります。
※有料記事は購入後に全文閲覧できます。デジタルコンテンツの特性上、購入後のキャンセル・返品はできませんのでご了承ください。
※YouTubeメンバー限定動画の視聴には、別途メンバーシップ加入が必要です。
※記事内にPRリンクを含む場合があります。
「麻酔って、看護師はどこまで分かっていればいいの?」
麻酔は麻酔科医の仕事。そう思っていても、導入が始まった瞬間に「それ取って」「喉押して」「血圧測り直して」と声が飛んできます。薬の名前は知らないものばかりで、モニターの数字も何を見ればいいのか分からない。新人のうちは、麻酔の時間がいちばん怖いという人も少なくありません。
でも、麻酔の記事を並べてみると、外回りが押さえることは「流れ・気道・薬・モニター・急変」の5つに収まります。いまどの段階にいて、麻酔科医が何を気にしているのか。それが分かると、次に呼ばれる前に手が動くようになります。
このページは、これまで書いてきた麻酔まわりの記事をテーマごとに並べ直した地図です。明日の症例で気になるところがあれば、そこだけ拾い読みしてもらって大丈夫です。
読む前に|麻酔は「麻酔科医の目線」で覚えると早い
麻酔の勉強を始めると、薬の名前と数値を片っ端から覚えたくなります。でも私が遠回りだったと感じているのは、まさにそこでした。
外回りをしていて一番効いたのは、麻酔科医の視点に立つことです。麻酔科医がモニターのどの数字を見て、患者さんのどこを見て、何を考えているのか。
このページの記事も、その目線を意識してまとめています。
全身麻酔の流れ
まずは入室から退室までの「時間の流れ」です。全身麻酔は導入・維持・覚醒の3つに分かれ、外回りの忙しさは導入と覚醒の2回に山が来ます。
どの段階にいるかが分かれば、準備の順番も見えてきます。
全身麻酔から挿管までの流れ
麻酔導入は、外回りがいちばん手を求められる数分間です。タイムアウトのあと、酸素を十分に吸ってもらい、静脈麻酔薬で眠ってもらう。
マスクで換気できるのを確かめてから筋弛緩薬を入れ、挿管する。この順番が頭に入っていると、吸引や固定テープを差し出すタイミングが自然に合ってきます。
私がやりがいを感じていたのは、麻酔がかかる直前まで患者さんの手を握り、声をかけていた時間でした。眠る前の最後の数十秒も、外回りの大事な仕事です。
全身麻酔から目覚めるまで(抜管から回復室へ)
麻酔からの目覚めは、スイッチを切るように一瞬で起こるものではありません。薬が抜けていくにつれて、呼吸、反応、意識の順に少しずつ戻ってきます。
抜管の前後は、患者さんが急に体を動かしたり、ルートに手を伸ばしたりしやすい時間です。転落やライン抜去を防ぎながら、声をかけ続けるのが外回りの役目になります。
病棟への申し送りでは、使った鎮痛薬と最後に使った時刻を必ず伝えていました。フェンタニルのように呼吸を抑える薬は、帰室後も影響が残ることがあるからです。
全身麻酔・脊椎麻酔・硬膜外麻酔の違い
3つの違いをひとことで言うなら、患者さんが起きているかどうかと、どこに薬を入れるかです。全身麻酔は意識をなくします。
脊椎麻酔(脊髄くも膜下麻酔)は背中から髄液のある腔に局所麻酔薬を入れ、効きが早い分、血圧が急に下がりやすい。硬膜外麻酔は細い管を残して、術後の痛み止めにも使えます。
区域麻酔では患者さんの意識があるので、会話そのものが大切な観察になります。「気持ち悪くないですか」と聞く一言が、血圧低下を見つけるきっかけになることもあります。
腹腔鏡手術はなぜ全身麻酔が必要か
「傷が小さいから体への負担も小さい」と思われがちですが、麻酔の側から見ると話は逆です。お腹を二酸化炭素でふくらませる(気腹)と、横隔膜が押し上げられて肺がふくらみにくくなります。
吸収された二酸化炭素で、呼気の二酸化炭素(EtCO₂)も上がりやすくなります。だから人工呼吸で換気をコントロールし、筋弛緩でお腹の壁をゆるめる必要がある。
この理屈が分かると、気腹を始めた直後にモニターのどこを見ればいいかが決まります。
挿管と気道の確保
麻酔中の急変のなかで、いちばん時間の猶予がないのが気道のトラブルです。挿管は麻酔科医の手技ですが、道具を渡す・喉を押す・時間を見るのは外回り。
介助の質が、そのまま成功率に関わる場面です。
気管挿管の介助と抜管の流れ
挿管の介助は「準備が8割」です。喉頭鏡のライトがつくか、カフに漏れがないか、吸引がすぐ使えるか。
始まってから気づいても間に合いません。そして見落としやすいのが抜管のほうです。
抜管直後は、喉がけいれんして閉じたり、舌が落ち込んで息がしにくくなったりすることがあります。だから挿管の道具は、抜管が終わって呼吸が落ち着くまで片づけない。
この習慣ひとつで、いざというときの数十秒が変わります。
BURP法とセリック法の違い
「喉を押して」と言われたとき、押す場所も目的も2通りあります。BURP法は、のどぼとけ(甲状軟骨)を後ろ・上・右へ押して、麻酔科医から声帯を見えやすくする方法。
セリック法は、その少し下にある輪状軟骨を押して、胃の内容物が逆流するのを防ぐ目的で行われてきた方法です。どちらを求められているか分からないまま押すと、かえって見えにくくなることもあります。
迷ったら「どちらですか」と聞いて大丈夫です。
分離肺換気とダブルルーメンチューブ
肺の手術などで、片方の肺だけに空気を送るための管がダブルルーメンチューブです。気管に入る管と、左右どちらかの気管支まで進む管の2本が1本にまとまっています。
左用がよく使われるのは、右の気管支は分かれてすぐ上葉への枝が出ていて、管の位置合わせが難しいからです。外回りが一番気をつけたいのは、仰向けから横向きに体位を変える瞬間。
チューブがずれやすいので、体位変換のあとに麻酔科医が位置を確かめ直す時間をつくります。
挿管困難への対応
挿管できないこと自体より怖いのは、酸素が入らない時間が続くことです。日本麻酔科学会の気道管理アルゴリズムは、換気ができているかどうかで状況を3つのゾーンに分けて考えます。
ここで大事なのは、SpO₂が下がり始めてから動くのでは遅いということ。数値が落ちる前に、マスク換気の手応えや胸の上がりを見て、応援を呼び、DAMカート(気道確保困難のときの道具をまとめたカート)を部屋に入れる。
その判断を外回りが先回りできるかが分かれ目です。
麻酔薬を知る
麻酔薬は数が多く見えますが、役割は「眠らせる・痛みをとる・筋肉をゆるめる」の3つと、それを元に戻す薬に分けられます。名前を覚える前に、どの役割の薬なのかを先に決めるのが近道です。
麻酔薬の種類と作用一覧
この記事は、麻酔薬全体の「棚」の役割です。静脈麻酔薬、鎮痛薬、筋弛緩薬、そして拮抗薬(リバース)。
この4段の棚に薬を置いていくと、初めて聞く名前でも「これは眠らせる側か、痛みをとる側か」で考えられるようになります。たとえば筋弛緩薬のロクロニウムには、効果を打ち消すスガマデクスという相棒がいます。
終わりに近づいてリバースの準備が出てきたら、覚醒が近いサインです。薬の流れが、そのまま手術の時計になります。
セボフルランとデスフルラン
どちらも吸って使う麻酔薬(吸入麻酔薬)ですが、得意な場面が違います。セボフルランは気道への刺激が少なく、マスクから吸ってもらう導入にも使えます。
デスフルランは体から抜けるのが速く、目覚めが早いのが強み。ただ気道を刺激しやすいので、吸入での導入には向きません。
もうひとつの鍵がMAC(最小肺胞濃度)という物差しです。モニターの麻酔ガス濃度を見るときは、この数字を基準に「深いか浅いか」を読んでいます。
アネレムとプロポフォールの違い
どちらも眠らせるための静脈麻酔薬です。プロポフォールは長く使われてきた定番で、注入するときに血管痛が出やすいことでも知られています。
アネレム(レミマゾラム)は比較的新しい薬で、ベンゾジアゼピン系の仲間です。効果を打ち消す拮抗薬(フルマゼニル)があること、血圧が下がりにくいとされることが特徴です。
どの薬を選ぶかは麻酔科医の判断ですが、「今日はなぜこっちなんだろう」と考えると、患者さんの背景が見えてきます。
局所麻酔薬の種類と局所麻酔薬中毒(LAST)
局所麻酔薬は、外科医も麻酔科医も使う、いちばん身近な麻酔薬です。だからこそ見落とされやすいのが、使える量に上限があることと、血管に入ったときの中毒(LAST)です。
口のまわりのしびれ、金属のような味、耳鳴り、落ち着きのなさ。こうした初期のサインは、意識のある患者さんでないと気づけません。
進むとけいれんや不整脈につながるので、局所麻酔薬を使う手術では、注入した量と患者さんの言葉の両方を追いかけておきます。
区域麻酔と神経ブロック
末梢神経ブロックの介助
手や足の手術でよく行われるのが、超音波で神経を見ながら、そのまわりに局所麻酔薬を入れる末梢神経ブロックです。全身麻酔と組み合わせて、術後の痛みをやわらげる目的でも使われます。
外回りの役目は、エコーの位置どりや清潔野の準備、そして薬を入れている最中の患者さんの観察です。局所麻酔薬の量が多くなりやすいので、さきほどのLASTのサインはここでも必ず意識します。
麻酔器とモニタリング
モニターは、麻酔科医と外回りが同じものを見られる唯一の窓です。数字の正常値を覚えるより、「この数字が変わったら、何が起きている可能性があるか」を結びつけておくほうが、現場では役に立ちます。
麻酔器の構造と始業点検
麻酔器は、ガスを送る部分、呼吸の回路、安全装置の3つで考えると整理できます。患者さんが吐いた息は、二酸化炭素を吸着剤で取り除いてから、もう一度使われています。
だから吸着剤の色が変わっていれば交換が必要ですし、回路のどこかに漏れがあれば換気が足りなくなります。始業点検は麻酔科医の仕事という施設も多いですが、点検で何を確かめているかを知っておくと、術中に「回路が外れた」ときに慌てずにすみます。
麻酔器モニターの見方(VCV・PCV・EtCO₂)
人工呼吸の設定は、大きく2つの考え方に分かれます。送る空気の量を決めるVCVと、かける圧を決めるPCVです。
VCVでは量が一定なので、肺が硬くなれば気道内圧が上がります。PCVでは圧が一定なので、肺が硬くなれば入る量が減ります。
どちらで動いているかを知らないと、アラームの意味を読み違えてしまいます。もうひとつはEtCO₂の波形。
数字だけでなく形を見ると、挿管がうまく入ったかや、回路が外れていないかまで分かります。
Aライン(動脈ライン)の準備と0点校正
Aラインは、血圧を一拍ずつ連続で見るための管です。導入で血圧が大きく揺れる手術や、血ガスを何度も採る手術で入ります。
新人がつまずきやすいのは0点校正と、圧トランスデューサーの高さです。基準は心臓(右心房)の高さで、ここがずれると数値もずれます。
手術台の高さを変えたあとに「急に血圧が下がった」と思ったら、まず高さを疑う。波形がなまっていたら、ラインの中の気泡や折れ曲がりを探す。
この2つを覚えておくだけで、慌てる場面がぐっと減ります。
血ガス(動脈血液ガス)の見方
SpO₂やEtCO₂は連続で見られる便利な数字ですが、体の中で起きていることのすべては分かりません。血ガスは、酸素と二酸化炭素に加えて、酸とアルカリのバランス、電解質、ヘモグロビン、乳酸まで一度に返ってくる検査です。
出血が続いている手術では、ヘモグロビンと乳酸の推移が輸血の判断材料になります。結果を受け取ったら、数字を読み上げるだけでなく、前回の値と並べて渡す。
それだけで麻酔科医の判断が速くなります。
麻酔中に起きる急変
麻酔導入時の血圧変動と心停止
麻酔中に血圧が揺れやすいタイミングは、ある程度決まっています。眠らせる薬が入ると、血管が広がって血圧が下がりやすくなる。
逆に、挿管や皮膚切開の刺激では、急に上がりやすくなる。この「下がる→上がる」の波を先に知っておくと、測定の間隔を詰めるタイミングが分かります。
そして、最悪の事態として知っておきたいのが心停止です。モニターに波形が出ているのに脈が触れないPEAのように、心電図だけでは気づけない形もあります。
数字と患者さんの両方を見る理由が、ここにあります。
挿管困難への対応も、急変のひとつとして読み返しておいてください。気道と循環は、どちらか一方だけが崩れることはあまりありません。
体位固定、輸液・輸血、体温管理、急変対応、記録など、麻酔以外の外回りの仕事は、対になる「外回り看護のまとめ」で整理しています。
導入から覚醒までの全体をつなげたいときは、あわせて読んでみてください。
動きや波形で確認したいときに
全身麻酔、脊髄くも膜下麻酔の麻酔レベル確認、麻酔器モニター、Aライン、血ガスは、YouTubeでも時間をかけて解説しています。モニターの波形や挿管の手元は、文章より映像のほうが早く伝わることがあります。
挿管困難や術中のモニター異変のシミュレーションなど、踏み込んだ内容の一部はメンバーシップ向けに置いています。必要になったときに覗いてもらえたら嬉しいです。
麻酔の勉強、どの順で進めるか
麻酔の記事は、どれも単独で読めるように書いています。それでも順番に迷ったら、私が後輩に勧めるならこうします。
- 全身麻酔から挿管までの流れを最初に。導入の数分間が見えると、麻酔の時間が「何が起きているか分からない時間」ではなくなります
- 次に麻酔薬の種類と作用一覧。薬の棚ができると、指示の意味が分かるようになります
- そのあと麻酔器モニターの見方。数字と波形が読めると、急変の前ぶれに気づけるようになります
- 挿管困難や心停止の記事は、一度通して読んでおいて、ときどき読み返す。めったに起きないことほど、頭の中で練習しておくしかありません
手術室で10年働いても、緊急手術の対応だけは最後まで緊張しました。慣れることはあっても、怖さが消えることはありませんでした。
だから新人のうちに麻酔が怖いのは、ごく自然なことです。
今日の導入で分からなかったことを、ひとつだけ調べる。麻酔科医が見ていた数字を、ひとつだけ覚えて帰る。
その積み重ねで、「次はあの指示が来る」と分かる日が必ず来ます。このページを、その答え合わせの入口として使ってもらえたら嬉しいです。





















コメント