「腹腔鏡手術って傷が小さいのに、なぜ全身麻酔が必要なの?」
「下半身だけの手術なら、脊椎麻酔(下半身麻酔)じゃダメなの?」
「“気腹”って言葉は聞くけど、患者さんの体の中で何が起きているの?」
新人手術室看護師(オペ看)の中には、腹腔鏡手術で“当たり前のように全身麻酔”が行われていることに、ふと疑問を持った経験がある方も多いのではないでしょうか。
実際、腹腔鏡手術は「低侵襲(体への負担が少ない)」と言われますが、それはあくまで“傷の大きさ”の話です。気腹、人工呼吸管理、筋弛緩、極端な体位変換など、患者さんの呼吸や循環(心臓の働き)には、開腹手術以上に急激で大きな負担がかかっています。
つまり、単に「痛いから眠らせる」のではなく、“安全に手術を成立させ、患者の命を守るため”に全身麻酔が絶対に必要になるのです。
この記事では、「腹腔鏡手術 全身麻酔 なぜ」という素朴な疑問に対し、気腹による体への影響、筋弛緩と人工呼吸の必要性、そして手術室看護師が術中に見るべきポイントまで、周術期看護の視点からわかりやすく徹底解説します!
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腹腔鏡手術とは何か(「小さい傷=負担が少ない」の罠)
腹腔鏡手術とは
お腹に5mm〜12mm程度の小さな穴(ポート)を数箇所開け、そこから二酸化炭素のガスを入れてお腹を膨らませ(気腹)、内視鏡(カメラ)や専用の細長い器具(鉗子)を挿入して行う手術のことです。
主な特徴とメリット
- 低侵襲:傷が小さいため、術後の痛みが少ない。
- 美容面:傷跡が目立ちにくい。
- 早期回復:腸の動きの回復が早く、術後早期に離床(ベッドから起き上がる)できる。
どんな手術で行われるか
胆嚢摘出術、虫垂切除術(盲腸)、胃ガンや大腸ガンの切除、婦人科(子宮や卵巣)の手術、泌尿器科(前立腺や腎臓)の手術など、現在では多くの腹部手術が腹腔鏡で行われています。
👉 新人ナースへのポイント
傷が小さいからといって「簡単な手術」「軽い麻酔で大丈夫」と思うのは大間違いです。お腹の中での操作や体への影響は、開腹手術と同等、あるいはそれ以上にダイナミックな変化を起こします。
腹腔鏡手術を全身麻酔で行うのはなぜ?(4つの最大の理由)
ここがこの記事の核心です。なぜ脊椎麻酔(いわゆる下半身麻酔)などではなく、気管挿管を伴う「全身麻酔」でなければならないのでしょうか?
理由①:お腹を膨らませる「気腹(きふく)」を行うため
腹腔鏡手術では、お腹の中に空間(術野)を作らないとカメラで中が見えず、器具も動かせません。そのため、炭酸ガス(CO₂)をパンパンに注入します。
お腹がガスで膨らむと、横隔膜(胸とお腹の境目にある筋肉)が上に強く押し上げられます。これにより肺が下から圧迫され、患者さんは自力で十分に呼吸をすることが極めて困難になります。
理由②:強固な「筋弛緩(筋肉の緩み)」が絶対に必要だから
お腹にガスを入れる際、患者さんの腹筋に力が入っていると、お腹が十分に膨らみません。また、器具を操作する際に筋肉が硬いと内臓を傷つける危険があります。
そのため、「筋弛緩薬(きんしかんやく)」という薬を使って、全身の筋肉を完全にダラッと緩めます。しかし、筋弛緩薬を使うと呼吸をするための筋肉(横隔膜や肋間筋)も止まってしまうため、機械による人工呼吸が絶対に必要になるのです。
理由③:安全な呼吸管理(二酸化炭素の排出)のため
気腹に使われる炭酸ガス(CO₂)は、腹膜から患者さんの血液中にどんどん吸収されていきます。血中のCO₂濃度が上がりすぎると、血液が酸性に傾き(アシドーシス)、不整脈などの命に関わる合併症を引き起こします。
この増えすぎたCO₂を体外に追い出すためには、人工呼吸器の設定を調整して換気回数を増やす(たくさん深呼吸させる)必要があります。これは自発呼吸(自分の意識での呼吸)ではコントロール不可能です。
理由④:極端な「体位変換」によるリスクから守るため
腹腔鏡手術では、重力を利用して腸などの邪魔な臓器を避けるため、極端な体位をとります。
例えば、頭を極端に下げる「頭低位(トレンデレンブルグ体位)」では、胃の中の消化液が口に逆流しやすく、それが気管に入ると致死的な誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)を引き起こします。
全身麻酔で気管チューブを挿管し、風船(カフ)で気道を塞いでおくことで、この逆流から肺を確実に守ることができます。
👉 新人ナースへのポイント
腹腔鏡手術の全身麻酔は、「痛みを消す」だけではなく、「気腹の圧迫から肺を守り」「筋弛緩による呼吸停止を補助し」「増えるCO₂を排出し」「誤嚥から気道を守る」という命を守るための必須パッケージなのです。
全身麻酔中に行われていること(麻酔の3要素)
麻酔科医は、手術中ただ患者を寝かせているわけではありません。常に以下の「麻酔の3要素」をコントロールしています。
- ① 鎮静(ちんせい):意識を消失させ、「怖い」「何が行われているか分かる」という精神的苦痛を取り除きます。
- ② 鎮痛(ちんつう):メスで切られる激しい痛みを取り除きます。痛みによる血圧の異常上昇などを防ぎます。
- ③ 筋弛緩(きんしかん):筋肉の緊張を解き、外科医が手術をしやすい状態を作ります。
腹腔鏡手術においては、特にこの「③ 筋弛緩」とそれに伴う「人工呼吸による換気管理」がシビアに要求されます。
気腹(きふく)とは何か?なぜCO₂を使うのか?
気腹の目的
お腹の壁(腹壁)を持ち上げてドーム状の空間を作り、カメラの視野と器具を動かすスペース(術野)を確保することです。
なぜ炭酸ガス(二酸化炭素・CO₂)を使うのか?
酸素や空気ではなくCO₂を使うのには明確な理由があります。
- 燃えにくい(不燃性):術中には電気メス等のエネルギーデバイスを使います。酸素を入れると爆発・発火の危険がありますが、CO₂なら燃えません。
- 血液に溶けやすい:万が一、ガスが血管の中に入ってしまっても(ガス塞栓)、CO₂は空気に比べて数十倍も血液に溶けやすいため、すぐに吸収されて命に関わるリスクを下げられます。
気腹による「身体への影響」を理解する
気腹の圧力(通常8〜12mmHg)は、患者の全身に大きな負担をかけます。
呼吸への影響
お腹が膨らむことで横隔膜が押し上げられ、肺が圧迫されます。人工呼吸器で肺を膨らませるのに強い圧力(気道内圧上昇)が必要になり、肺の末端に空気が届きにくくなります。
循環(心臓と血圧)への影響
お腹の中の圧力が高まると、お腹の中を走る太い静脈(下大静脈)がペチャンコに潰されます。すると、足から心臓へ戻る血液の量(静脈還流)が減ってしまい、気腹を開始した瞬間に血圧が急低下することがあります。その後、体が「血圧を上げなきゃ!」と反応し、逆に血圧が高くなるなど変動が激しくなります。
その他の影響(術後の肩の痛み)
横隔膜がCO₂ガスによって刺激されると、その神経の繋がり(放散痛・関連痛)によって、術後に「なぜか肩が痛い」と訴える患者さんが多くいます。これは気腹特有の症状です。
👉 新人ナースへのポイント
気腹の開始スイッチを入れる瞬間は、「患者の呼吸と循環が急激に変化する魔のタイミング」です。モニターから目を離してはいけません。
手術室看護師(外回り)が見るべき3つの重要ポイント
① 麻酔導入時(気管挿管)
腹腔鏡手術では確実な気道確保が必須です。挿管時は麻酔科医の介助に集中し、スムーズに人工呼吸管理へ移行できるようサポートします。
② 気腹開始時(モニターの変化)
術者が「気腹始めます」と宣言したら、外回り看護師は直ちに生体情報モニターを確認します。
- 血圧の急低下はないか?(静脈還流の減少)
- EtCO₂(呼気終末二酸化炭素分圧)は上がりすぎていないか?(CO₂の吸収)
- SpO₂(酸素飽和度)は下がっていないか?(肺の圧迫)
③ 体位変換時のトラブル防止
気腹後に手術台を大きく傾ける(頭低位や右側臥位など)際は、以下に注意します。
- チューブ類の引っ張り:気管チューブや点滴のルートが引っ張られて抜けないか。
- 神経・皮膚障害:ズレによって腕の神経(腕神経叢)が引っ張られたり、固定具で圧迫されたりしていないか。
腹腔鏡手術で使う主な機器(看護師も理解必須)
- 気腹装置(インフレーター):設定した圧力(通常10mmHg前後)になるよう、自動でCO₂ガスを注入・維持する機械。ガスボンベの残量チェックが外回り看護師の重要任務です。
- カメラシステム・モニター:術野を映し出します。映像が乱れると手術がストップするため、ケーブルの接続や設定を確認します。
- エネルギーデバイス:超音波凝固切開装置や電気メス。出血を止めながら組織を切るための必須アイテムです。
新人がつまずくポイントと指導者向け:教育のポイント
新人がつまずくポイント(原因)
「なぜ腹腔鏡で挿管するのか理解できない」「気腹の意味が分からない」という疑問は、「傷の小ささ=麻酔も軽くていい」という誤ったイメージから生じます。原理(お腹を膨らませると肺が潰れる、という物理的な事実)を学べていないことが原因です。
指導者向け:NGな指導
「腹腔鏡は全麻って決まってるから」「そういうルールだから」で済ませるのはNGです。これではアセスメント能力が育ちません。
指導者向け:OKな指導(効果的教育)
「お腹にガスをパンパンに入れたら、肺はどうなると思う?」「苦しくて自力で呼吸できないよね。だから挿管して人工呼吸器に繋ぐんだよ」と、気腹→呼吸・循環の変化→だから全身麻酔が必要、という一連の流れを図解で説明します。術中にモニターのEtCO₂の上昇を指差しながら教えると非常に効果的です。
現場で迷わない!腹腔鏡手術の「思考フレーム」
腹腔鏡手術の介助につくときは、以下の3つのステップで考えましょう。
- ① 気腹で何が起きる?(お腹が圧で膨らみ、横隔膜が上がる、血流が圧迫される)
- ② 呼吸・循環はどう変化する?(呼吸が苦しくなり、血圧が変動し、血中CO₂が上がる)
- ③ だから麻酔管理(看護)はどうすべきか?(確実な気管挿管、換気量の調整、モニターの厳重監視が必要!)
👉 最後のポイント
迷ったときは常に「換気(呼吸)と循環(血圧)」に立ち返ってください。ここが守られていれば、患者の命は守られます。
まとめ
- 腹腔鏡手術は傷こそ小さいが、気腹や体位変換により呼吸・循環への負担は非常に大きい。
- 全身麻酔が必要な最大の理由は、気腹による肺の圧迫から呼吸を守り、筋弛緩薬を用いて術野を確保し、増えすぎるCO₂を人工呼吸で排出するため。
- 手術室看護師は、気腹開始時の血圧低下やCO₂上昇、体位変換時のチューブトラブルを予測し、麻酔科医・執刀医と共に患者の安全を守る役割がある。
参考文献・引用文献
- 日本内視鏡外科学会 (2019) 『内視鏡外科手術ガイドライン 改訂第3版』.
- 日本麻酔科学会 (2020) 『麻酔科学スタンダード』.
- メディカ出版 『オペナーシング』各号(腹腔鏡手術の麻酔・合併症対策特集).
- 日本手術医学会 (2019) 『手術医療の実践ガイドライン 改訂第3版』.
◆ ごあいさつ
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