
手術室看護師は、全身麻酔時や手術中の循環変動に注意することが重要です。
たとえば、麻酔薬には血管拡張作用があるため、脱水状態の患者に使用すると、血圧低下を引き起こすリスクがあります。
手術前の患者は、基本的に絶飲食による脱水状態であるため、手術室看護師は血圧変動への対応が重要となります。
またその他にも麻酔や手術に伴い、あらゆる原因によって血圧変動をきたしやすいため、常に循環管理を正しく行うことが重要です。
この記事では、オペ室看護師勉強用として全身麻酔や手術による循環変動への対応方法や不整脈について解説しています。
手術室看護師や麻酔看護について知りたい方はぜひ参考にしてください。
【この記事で分かること】
✅ 麻酔・手術中に起こる循環変動の原因
✅ 麻酔導入時から挿管・手術開始までに注意すべき血圧変動のタイミング
✅ 注意すべき不整脈と手術室看護師の対応方法
麻酔・手術中はなぜ血圧が変動しやすいの?
麻酔・手術中に起こる循環変動の原因には次のようなものがあります。
- 麻酔薬による心抑制と交感神経抑制
- 皮膚切開時など手術侵襲による交感神経刺激
- 手術体位を固定し直す際や、術中体位変換に伴う静脈還流への影響
- 出血に伴う血圧低下
- タニケットの遮断時間延長・大動脈遮断に伴う血圧上昇
麻酔覚醒時に起こる血圧変動の原因とは?
麻酔覚醒時は、麻酔薬による影響が失われることで、次のような反応が起こります。
- 創部からの疼痛刺激
- 挿管チューブやラリンジアルマスクなど気道確保デバイスによる刺激
- 術中低体温に対する反応
- シバリング
これらにより、麻酔覚醒時は血圧上昇や頻脈を引き起こしやすくなります。
循環動態を決める4つの要素【前負荷・心収縮力・心拍数・血管抵抗】とは?
前負荷
前負荷とは、拡張期の心室の容積(拡張末期用量)です。
通常の状態では1心周期に静脈系から心室へ戻ってくる量に依存しており、静脈還流として考えると良いでしょう。
前負荷と心拍出量の関係を「Franc-Starlingの法則(フランクスターリングの法則)」と呼びます。
心収縮力
心収縮力とは一定の前負荷に対してのポンプ機能を指します。
しかし臨床的には評価が困難であり、静脈還流と並んで心拍出量を決定する因子と考えると分かりやすいでしょう。
心拍数
心拍出量=1回の拍出量×心拍数という関係にあります。
成人の場合は、心筋酸素需給バランスの点から頻脈は不利となりますが、小児の場合は1回拍出量に限界があるため、徐脈が不利となります。
血管抵抗
血管抵抗は後負荷とも呼ばれ、心拍出量と平均血圧の関係を決めています。
麻酔導入時から挿管・手術開始までに注意すべき血圧変動のタイミング
麻酔導入時から挿管までに注意すべき血圧変動のタイミングは次の4つです。
- 麻酔薬導入の直前
- 麻酔薬導入の直後
- 気管挿管を行う際
- 気管挿管後から手術開始まで
以下でそれぞれについて詳しくみていきましょう。
麻酔薬導入の直前
麻酔導入時は基本的に循環血液量が不足し、静脈還流が減少しています。
その原因には次のようなものがあります。
- 術前から絶飲食を行っている
- 下剤の内服や浣腸などの術前消化管処置を行っている
- 緊急手術の場合、外傷・経口摂取不足・腹膜炎を伴うことがある
このような理由により、術前は脱水状態となっています。
術前脱水の場合、交感神経緊張により血圧を維持していることが多いため、麻酔導入に伴う意識消失により、急な低血圧を引き起こすことがあるため注意が必要です。
麻酔薬導入の直後
麻酔導入薬によっては交感神経抑制を引き起こす薬があります。
特に、心機能に予備能が少ない患者ほど血圧低下が重篤になりやすいため注意が必要です。
麻酔導入時の循環変動を避けるためには、次のような予防策が重要です。
- 交感神経抑制を生じにくい麻酔薬を使用する
- 急激な麻酔薬の濃度上昇や、急速な意識消失を避けるために麻酔薬の持続静注を検討する
気管挿管を行う際
喉頭展開・気管チューブの挿入などの咽頭操作は、交感神経刺激をきたすため、頻脈と血圧上昇を引き起こします。
喉頭操作に伴う交感神経刺激を回避するための方法には、次のようなものが挙げられます。
- 麻薬性鎮痛薬の投与
- β遮断薬の投与
- 気道への局所麻酔薬の投与
- 挿管ではなく、ラリンジアルマスク(LMA)を使用する
ラリンジアルマスク(LMA)などの声門上器具は、声門部に直接チューブが接触しないため、循環変動は挿管よりも軽減されます。
気管挿管後から手術開始まで
気管挿管後から手術開始までは侵襲がないため、麻酔薬による循環抑制が現れやすくなります。
また体位固定時の下肢挙上や、側臥位・腹臥位への体位変換時は血圧変動を引き起こしやすいため、注意が必要です。
手術中に循環変動が起きた際の具体的な対応方法
手術中に循環変動が起きた際は、循環変動をきたしている原因を探り、原因治療を行うことが重要です。
また、原因治療以外の循環変動への対処方法として、血圧低下時・血圧上昇時・心拍数低下時・心拍数上昇時に分けて以下で解説します。
手術中に血圧低下した際の対応方法
収縮期血圧が85mmHg以下になった場合や、急な血圧低下をきたした場合には、以下のような対応方法があります。
- 麻酔を浅くする
- 頭低位をとる・下肢挙上する
- フェニレフリンを投与する
- 輸液投与量を増やす(滴下速度を早める)
手術中に血圧が上昇した際の対応方法
収縮期血圧が175mmHg以上となった場合や、急な血圧上昇をきたした場合は、以下のような対応方法があります。
- 麻酔を深くする
- 頭高位をとる
- ニトログリセリン・ニトロプルシドを投与する
- 輸液投与量を緩める(滴下投与速度を調整する)
手術中に心拍数が低下した際の対応方法
心拍数が40回/分以下となった場合や、急な心拍数低下をきたした場合は、以下のような対応方法があります。
- 麻酔を浅くする
- ドパミン・ドブタミンを持続投与する
- アトロピンを投与する
手術中に心拍数が上昇した際の対応方法
心拍数90回/分以上となった場合や、急な心拍数上昇をきたした場合は、以下のような対応方法があります。
- 麻酔を深くする
- β遮断薬(エスモロール)を投与する
麻酔中に注意すべき不整脈【無脈性電気活動(PEA)・心室頻拍(VT)・心室細動(VF)・心静止】とは?
麻酔中は、心停止に至る可能性のある不整脈の発生に対して、緊急対応できるかが重要です。
麻酔中の不整脈の基本的な考え方としては、「血圧が保たれているかどうか」がポイントとなります。
そのため心停止に至る不整脈の発生と心電図波形を注意して観察しましょう。
心停止に至る不整脈は次の4つです。
- 無脈性電気活動(PEA)
- 心室頻拍(VT)
- 心室細動(VF)
- 心静止
以下でそれぞれについて詳しくみていきましょう。
無脈性電気活動(PEA)

無脈性電気活動(PEA)とは、心電図上波形はあるが、平均の収縮期血圧が50mmHg以下で脈の触れない不整脈です。
麻酔中の場合は低酸素血症や血管内容量の減少が原因として挙げられます。
また、無脈性電気活動(PEA)のよくある原因には『6H5T』と呼ばれるものがあります。
無脈性電気活動(PEA)の原因『6H5T』とは?
無脈性電気活動(PEA)の原因である『6H5T』とは以下を指します。
【6H】
・循環血液量減少(Hypovolemia)
・低酸素症(Hypoxia)
・水素イオン(Hydrogen ion)(アシドーシス)
・低/高カリウム血症(Hypo-/hyperkalemia)
・低血糖(Hypoglycemia)
・低体温(Hypothermia)
【5T】
・毒物(Toxin)
・心タンポナーデ(Tamponade,cardiac)
・緊張性気胸(Tension pneumothorax)
・血栓症(冠動脈または肺動脈)(Thrombosis)
・外傷(Trauma)(循環血液量減少)
心室頻拍(VT)

心室頻拍(VT)とは、心室細動(VF)の一歩手前の状態です。
心室頻拍はたとえ血圧があってもすぐに消失することが多く、心室細動に移行しやすい波形です。
そのため、心肺蘇生・除細動の準備・緊急カートの準備が重要です。
心室細動(VF)

心室細動(VF)は、心室が不規則な収縮を繰り返すだけで、心臓は有効な血圧を生み出す拍出を行うことができない状態を指します。
電気メスなどの影響もなく、脈拍も触れない場合は、すぐに胸骨圧迫と早期の除細動が必要です。
心静止

心静止とは、心電図の波形が全く出現しない、横一線フラットの状態のことです。
心臓が電気的な活動さえも行っていない状況を示しています。
ただし、心電図のリードが正しくついているかや、感度が低くないか等を確かめる必要があります。
麻酔中や手術中に心停止が起きたら?
不整脈に対する手術室看護師の初期対応
麻酔中や手術中に不整脈波形を心電図上で確認した場合、まずは次のような対応をとりましょう。
- 心電図のリード線が正しくついているかを確認する
- 電気メスによる影響が無いかを確認する(電気メス使用時は、一時的に不整脈のような波形となることがあるため、電気メスの使用による影響も視野に入れる必要があります)
- マンシェットが体格に対して小さすぎないか・大きすぎないか・正しく巻かれているかを確認する
- 動脈圧ラインが屈曲していないかどうか確認する
- 頸動脈や大動脈を触診し、血圧の把握を行う
- 患者の既往歴に心房細動・房室ブロックなどの不整脈が無いかを確認し、術前と同じ不整脈であるかを確認する(同じ不整脈が術中も継続していても、血圧が維持されていれば基本的には経過観察で問題ありません)
心停止につながる不整脈が起きている時の対応方法とは?
実際に心停止につながる不整脈【無脈性電気活動(PEA)・心室頻拍(VT)・心室細動(VF)・心静止】が起きている場合、手術室看護師は次のような対応をとりましょう。
- 「コードブルー」などの緊急コールを行い、人を集める
- 胸骨圧迫・心肺蘇生を行う
- 緊急カート(救急カート)の準備を行う
- 除細動器の準備・除細動を行う
- 医師の指示の下でボスミンなどの昇圧剤投与を行う
- 医師の指示の下での輸血準備・輸血投与
- ルートキープがされていない場合は、ルートキープを行う
- 挿管されていない場合は、喉頭鏡・挿管チューブなどを準備し、挿管に備える
【オペ看勉強用】麻酔中にもし心停止が起きたら?麻酔導入から挿管・手術開始までに注意すべき血圧変動のタイミングを徹底解説まとめ
この記事では、全身麻酔や手術中に手術室看護師が注意すべき循環変動や不整脈や対応方法について解説しました。
麻酔や手術は循環変動を引き起こすリスクがあるため、循環変動が起きた際の迅速な対応が重要です。
特に心停止につながる不整脈が起きている時は、緊急コールで人を集めることや早期の胸骨圧迫の開始などが重要です。
医師の指示に従い、冷静に対応しましょう。
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