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手術室や救急現場では、予期せぬ困難に直面することがあります。その中でも「挿管困難」は、看護師や医師にとって命に直結する重要な課題です。特に手術室看護師や救急看護師、緊急対応に不慣れな看護師にとっては、不安や緊張を伴う場面でしょう。
本記事では「挿管困難とは何か」「どのような症例がリスクになるのか」「現場でどのように対応するのか」について、実体験を交えながら解説します。
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🚨 挿管困難の対応 クイズ 全10問
SpO₂が下がる前に動けますか?3つのゾーンと、外回りが見る場所を確認しましょう。
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挿管困難とは何か
挿管困難とは、通常の方法で気管挿管が難しい、または不可能な状態を指します。気道の確保が困難になると、酸素化不良により命の危険に直結するため、迅速かつ適切な対応が求められます。
挿管困難の原因
肥満、首が短い、顎が小さい、頸椎可動域制限などが典型的なリスク因子です。
また、口腔や咽頭の構造的な問題、腫瘍や外傷による変形も原因となります。例えば私が経験した症例では、頸椎損傷の既往を持つ患者さんで首の伸展が難しく、通常の喉頭鏡での挿管ができませんでした。
このときはエアウェイスコープを使用して無事に気道を確保できました。
事前準備の重要性
術前評価で挿管困難が予測される場合には、エアウェイスコープやマックグラスといった特殊器具を最初から準備します。また、肥満患者では麻酔薬の使用量も増加するため、ロクロニウムなど筋弛緩薬の投与量を調整する必要があります。
以前、体重100kgを超える患者さんに通常量で投与したところ、十分な筋弛緩が得られず再投与を行った経験がありました。準備段階でのアセスメントが重要になることを痛感しました。
🔴 SpO₂が下がってから動くのでは遅い
挿管困難の対応で、いちばん知っておいてほしいのがここです。
日本麻酔科学会気道管理ガイドライン2014(日本語訳)は、「『SpO₂ 90%まで低下したら気道管理方法を変更する』という方針は採用していない」と明記しています。理由もはっきり書かれています。
換気ができず酸素供給が絶たれた状態で酸素消費が進行していても、SpO₂ の値は比較的長く安全域に維持されるからである。しかし、SpO₂ が急速に低下し始めると、そこから致死的不整脈や心停止が起きるまでの時間は短い。
モニターの数字は、実際より遅れて動きます。下がり始めたときには、もう余裕がありません。だから判断は数字ではなく「換気ができているかどうか」で行います。
ガイドラインの3つのゾーンで考える
同ガイドラインのJSA気道管理アルゴリズム(JSA-AMA)は、信号の色で3つに分かれています。
- 🟢 グリーンゾーン:フェイスマスクによる換気
- 🟡 イエローゾーン:ラリンジアルマスクなど声門上器具による換気
- 🔴 レッドゾーン:外科的気道確保による換気
そして移行の条件が、こう書かれています。「それぞれのゾーンにおいて換気状態を評価し、動脈血酸素飽和度の値にかかわらず、換気が不十分(V2)または不可能(V3)である場合には、次のゾーンに移行する」。
「SpO₂がまだ95%あるから、もう一回だけ挿管を試そう」は、ガイドラインの考え方ではありません。換気ができていないなら、数字を見ずに次へ行く——この順番が決まっているだけで、部屋の中の判断はずいぶん速くなります。アルゴリズムはJSA気道管理アルゴリズム(図)で1枚にまとまっているので、一度見ておくと頭に残ります。
外回りが見るべきなのは、モニターではなく「胸」
換気ができているかどうかを見る場所は、胸が上がっているか、カプノグラムの波形が出ているかです。SpO₂の数字だけを読み上げても、判断材料にはなりません。
「SpO₂ 92%です」ではなく「胸上がっていません、カプノ出ていません」。同じ場面でも、後者は次の行動につながります。
挿管困難時の対応
挿管がうまくいかない場合は、無理に続けるとさらに危険を招きます。次のステップを冷静に踏むことが大切です。
マスク換気ができない場合
基本的にはマスク換気で酸素化を図りますが、これすらできないケースがあります。私自身も、一度患者の顎が小さくマスクフィッティングが困難で酸素化が進まず、SpO2が急激に低下したことがありました。この時はラリンジアルマスクを挿入し、何とか換気を確保することができました。
ラリンジアルマスクも使用できない場合
稀ですが、ラリンジアルマスクの挿入すらできないことがあります。その場合、緊急で気管切開を行う必要があります。現場では「DAMカート」と呼ばれる困難気道対応カートに、緊急気管切開用のキットが常備されています。実際に私の勤務先でも、一度ラリンジアルマスクが入らず酸素化が困難になり、気管切開キットを準備する場面がありました。最終的にはファイバースコープでの挿管が成功し、気管切開には至りませんでしたが、準備の大切さを痛感しました。
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使用する器具と薬剤
挿管困難気道管理では、使用する器具や薬剤の知識が重要です。
主な器具
- エアウェイスコープ
- マックグラス
- 喉頭鏡
- 各サイズの気管チューブ
- スタイレット
- ブジー
- マギール鉗子
- カフシリンジ
- ラリンジアルマスク
- ファイバースコープ
マギール鉗子は特に経鼻挿管時に有用です。私の経験では、曲がったチューブの先端を鉗子で誘導し、確実に気管内に挿入できたことがありました。適切な使用方法を知っておくことが、安全な挿管に直結します。
薬剤セットの準備
薬は「気道そのものに使う薬」と「循環が崩れたときの薬」を分けて覚えると、当日迷いません。
① 気道の確保そのものに関わる薬
- ロクロニウム(筋弛緩薬)…体格によって必要量が変わります
- スガマデクス(ロクロニウムの拮抗薬)…「筋弛緩を戻す」判断になったときにすぐ要ります
- プロポフォール・レミフェンタニルなどの鎮静・鎮痛薬…追加投与の指示が出ることがあります
拮抗薬の場所を知らない人が意外と多いです。困難気道の場面では「戻す」判断が出ることがあるので、スガマデクスがどの棚のどこにあるかは、入室前に一度見ておいてください。
② 循環が崩れたときに出てくる薬
- エフェドリン…血圧が下がったときにまず使われることが多い薬
- フェニレフリン(商品名:ネオシネジン)…血管を収縮させて血圧を上げる
- アドレナリン(商品名:ボスミン)…アナフィラキシーや心停止のとき
- ノルアドレナリン…持続で血圧を保ちたいとき
- アミオダロン…致死的不整脈が出たとき(気道の薬ではありません)
商品名と一般名が混ざると、緊急時に二重に用意してしまいます。「アドレナリン」と「ボスミン」は同じ薬です。自分の施設でどちらの呼び方をするのかを、先に統一しておいてください。
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看護師ができる役割
困難気道への対応は医師だけでなく、看護師の迅速な補助が不可欠です。
物品準備と連携
挿管困難が予測される患者では、必要な器具を事前にカートへまとめておくことが重要です。以前、私が新人の頃、準備不足でスタイレットを探している間に挿管が難航したことがありました。先輩から「看護師の段取りが患者を救うこともある」と言われたことを今でも覚えています。
緊急時の動き方
緊急時は医師の指示を待つだけでなく、自ら判断して必要物品を用意する姿勢が求められます。例えば、マスク換気が難しいと分かった時点でラリンジアルマスクや気管切開キットを手元に準備することが大切です。私自身も一度、状況を先読みして準備を整えていたことで、医師から「助かった」と言われた経験があります。
DAMカートは「置いてある」だけでは足りません
困難気道対応カート(DAMカート)はどの施設にもありますが、中身を開けたことがある人は意外と少ないのが実際のところです。
入職して最初に見ておく3つ
1. どこに置いてあるか。「たしか廊下の突き当たり」では間に合いません。自分の担当室から何秒かかるかまで把握しておいてください。
2. 引き出しが何段あって、何段目に何が入っているか。緊急時に全部の引き出しを開けて探すことになるのがいちばん危険です。ビデオ喉頭鏡、声門上器具、ファイバースコープ、外科的気道確保キット——この4つが何段目かだけでも覚えておくと違います。
3. ビデオ喉頭鏡の電源とブレードのサイズ。バッテリー切れで使えなかった、という話は実際にあります。定期点検の担当が決まっているかも確認しておいてください。
術前に「予測されている」ときの動き
開口制限、頸部の可動域制限、肥満、いびきや睡眠時無呼吸の既往、過去の挿管困難の記録——これらが1つでもあれば、麻酔科医は必ず何か準備しています。
外回りとしては、「今日は何を出しておきますか」と入室前に一度聞くだけで十分です。聞かれて嫌がられることはまずありません。聞かずに当日探すほうが、はるかに気まずいです。
まとめ
挿管困難は決して珍しい状況ではなく、誰もが遭遇する可能性があります。大切なのは「事前準備」「冷静な対応」「チームでの連携」です。手術室看護師や救急看護師、緊急対応に不慣れな看護師であっても、知識と経験を積み重ねることで確実に対応力は高まります。日々の業務の中で「もし今、挿管困難が起きたらどう動くか」を意識し続けることが、現場での大きな力になるでしょう。

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⦅しんどい⦆を⦅楽しい⦆に

- 日本麻酔科学会.日本麻酔科学会気道管理ガイドライン2014(日本語訳).2015.(JSA気道管理アルゴリズム(図))
- 日本麻酔科学会・周術期管理チーム委員会編.周術期管理チームテキスト 第4版.神戸:日本麻酔科学会;2020.
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