※医療・看護ケアは各施設の方針に従ってください。手順・使用器械は施設により異なります。
※有料記事は購入後に全文閲覧できます。デジタルコンテンツの特性上、購入後のキャンセル・返品はできませんのでご了承ください。
※YouTubeメンバー限定動画の視聴には、別途メンバーシップ加入が必要です。
※記事内にPRリンクを含む場合があります。
「心外に配属されたけど、管と糸が多すぎて何が起きているのか分からない」
心臓の手術は、ほかの科と空気が違います。人工心肺の回路、何本も並ぶ弁糸、臨床工学技士との声かけ。
新人のうちは「いま手術のどこにいるのか」を見失いやすい科です。
手術室で10年働いてきた私も、器械出しで一番難しいと感じていたのは心臓血管外科でした。
ただ、心外の手術は「止める・置き換える・戻す」の流れで見ると、どの術式も似た骨組みをしています。
このページは、心臓血管外科と呼吸器の記事を部位ごとに並べ直した地図です。明日入る手術だけ拾い読みしてもらっても大丈夫です。
術式の前に|心外の土台は人工心肺
心臓の手術の多くは、人工心肺に心臓と肺の代わりをさせて行います。
体から血を抜き、機械で酸素を入れて、体へ戻す。この回路の向きが頭に入ると、次に出る器械が読めるようになります。

カニュレーション(人工心肺の導入)
カニュレーションで一番大切なのは、順番を守ることです。
ヘパリンを入れ、血液が固まりにくくなったことを検査値で確かめてから、管を入れます。確認の声を聞く前にカニューレを渡さない。
これは施設が変わっても同じです。
管が入るのは、送血、脱血、ベントの順です。人工心肺から離れるときは、基本的にその逆の順に抜けていきます。
初めて入る日は、手技を全部追わなくて大丈夫です。「管が入る順番」と「抜ける順番」だけを見てきてください。
冠動脈の手術
冠動脈の手術は、詰まった血管には手をつけず、その先へ迂回路を引く手術です。

CABG(冠動脈バイパス術)
CABGは、執刀前に3つ確認できたら準備の半分が終わる手術です。
人工心肺を使うか(オンポンプかオフポンプか)。バイパスは何本か。
どのグラフトをどこから採るか。
胸を開けるチームと、足や腕から血管を採るチームが同時に動くので、器械出しは自分が担当する術野をはっきりさせておきます。
採ったグラフトは乾かさない・強く挟まない。代わりがきかない材料だと思って扱ってください。
心臓弁の手術
弁の手術は、弁を取り替えるのか、自分の弁を直すのか、カテーテルで中に入れるのかで3つに分かれます。

大動脈弁置換術(AVR)
AVRの準備は、どの人工弁を使うかから始まります。
生体弁は長期のワーファリンが基本的に不要な代わりに、時間とともに傷みます。機械弁は長くもちますが、ワーファリンを生涯飲み続けます。
選ぶのは患者さんと医師で、年齢だけでなく暮らし方も含めて決められます。
器械出しで覚えておきたいのは、弁を切り取るときの石灰のかけらです。飛び散れば脳梗塞の原因になるので、膿盆で確実に受け取ります。
僧帽弁形成術(MVP)
MVPは弁を取り替えるのではなく、患者さん自身の弁を直す手術です。だから途中で「直ったかどうか」を何度も確かめます。
心臓に生理食塩水を入れて漏れを見る水テストは、その代表です。
器械出しで気を張るのは、弁輪にかける糸の多さと、人工腱索づくりに使う小さなチューブ類です。ガーゼより小さい物は清潔野の隅で消えやすいので、針と同じ厳しさで数えます。
TAVI(経カテーテル大動脈弁留置術)

TAVIは足の付け根などからカテーテルで弁を届ける治療で、多くは胸を開けません。それでも「胸を開けなくていい手術」ではありません。
血管や心臓を傷つけたときに備えて、開胸セットと人工心肺は部屋の中で待機させておきます。
弁を広げる数秒間は、心臓をとても速く打たせて、血液がほとんど送り出されない状態をつくります(ラピッドペーシング)。この数秒を全員で乗り切り、血圧が戻るまで見届けるのが外回りの役目です。
大動脈の手術
大動脈の手術は、どこを人工血管に置き換えるかで、守るものが変わります。
弓部なら脳、基部なら冠動脈、お腹なら足の血流です。

弓部大動脈置換術(トータルアーチ)
トータルアーチは、脳への血流をどう守るかがすべての中心にある手術です。
体を冷やして酸素の消費を減らし、弓部から出る3本の枝には、別の管で血液を送り続けます(選択的順行性脳灌流)。
新人がつまずきやすいのは、「逆行性脳灌流」と「逆行性心筋保護」が別物だという点です。前者は上大静脈から脳を守るもの、後者は冠静脈洞から心臓を守るものです。
A型大動脈解離では緊急手術になることもあります。10年たっても私が緊張し続けたのは、こうした緊急手術でした。
ベントール手術(大動脈基部置換術)
ベントールは、大動脈の根元を弁と人工血管が一体になった部品(コンポジットグラフト)で置き換える手術です。
流れは「土台 → 心臓の血流 → 出口」の順に考えると整理できます。弁を縫い付け、冠動脈の入り口を人工血管につなぎ直し、最後に先の大動脈とつなぎます。
器械出しの約束は、サイザーは人工弁と同じメーカーのものを使うこと、そしてサイズが決まるまで弁を開けないことです。
AAA(腹部大動脈瘤人工血管置換術)
AAAは開腹して行い、通常は人工心肺を使いません。山場は大動脈を遮断する瞬間と、遮断を外す瞬間の2回です。
遮断すると血圧が上がり、外すと急に下がることがあります(デクランプショック)。外回りは、遮断と解除の時刻を正確に残します。
足の拍動は、術前に触れる場所へ印をつけておきます。術後に同じ場所で比べるための基準になるからです。
小さな傷で行う心臓手術(MICS)
MICSは1つの術式名ではなく、胸骨を切らずに小さく開けて行う心臓手術の呼び方です。

よく混ざるのがOPCABとの違いです。「胸骨を切らない」のがMICS、「心臓を止めない」のがOPCAB。
弁のMICSでは、人工心肺を使います。
外回りが先に済ませたいのは、体外式の除細動パッドを消毒の前に貼ることです。覆布をかけたあとでは貼れません。
正中切開へ切り替わる場合に備えて、胸骨を切る器械も開けずに手の届く場所へ置いておきます。
呼吸器の手術
肺の手術は、片方の肺を休ませて、もう片方に呼吸を任せるところから始まります。
麻酔の準備と体位変換の重みが、ほかの科より一段大きい手術です。
分離肺換気とダブルルーメンチューブ
肺の手術に入る前に、まずここを押さえてください。左右の肺を分けて換気するために、管の出口が2つある特殊なチューブを使います。
右肺の手術でも左用のチューブを使うことが多いのは、右の気管支は分かれ道が近く、位置がずれやすいからです。
外回りが気をつけたいのは、側臥位にする体位変換です。チューブは数センチ単位で動くので、変換のあとは必ず位置の確認を待ってから固定を仕上げます。
気管挿管の介助や麻酔の流れから復習したい方は、麻酔の記事をまとめたページも参考にしてください。
胸腔鏡下肺切除術(VATS)
VATSは小さな穴からカメラを入れて行う肺の手術です。大事なのは、開胸に切り替わる可能性がゼロの症例はないと思っておくことです。
開胸セットの置き場所は、入室の時点で確かめておきます。
もうひとつは左右の確認です。モニターに映る術野の左右と、患者さんの左右を取り違えないように、手術の前に声に出してそろえます。
開胸肺切除術
開胸の肺切除は、術後の痛みがとても強い手術です。痛くて深呼吸や咳ができないと、肺炎につながります。
だから術中の鎮痛の情報は、申し送りで必ず伝えます。
器械出しで落としてはいけないのが、リンパ節の検体です。どこから採ったか分からない検体は、ほとんど価値がなくなります。
部位の番号を復唱し、容器を分けて受け取ります。
心臓血管外科で使う糸・止血材
心外は、糸と止血材の種類がとにかく多い科です。ここは名前ではなく「なぜそれを使うのか」で覚えると、術者が次に欲しがる物を先に用意できます。
プロリンとナイロン(非吸収糸)
心外の主役は、青いプロリンです。血管のつなぎ目は、ずっと血圧に耐え続けなければいけません。
だから溶けない糸が選ばれます。
血管吻合のプロリンは、1本の糸の両端に針がついていることが多いです。針カウントは2本分になります。
7-0や8-0の細い糸は、たるませたまま渡すのがコツです。張った状態で渡すと、すぐに絡んだり切れたりします。
サージセルとタコシール(止血材)
覚え方は「ドライのサージセル、ウェットのタコシール」です。サージセルは乾いたまま当て、タコシールは湿らせて貼ります。
2つを同じ場所に重ねて使わないことも大切です。サージセルは酸性で、タコシールの成分の働きを落としてしまうことがあります。
タコシールは血液製剤由来の製品なので、ロットの記録を外回りと必ず突き合わせます。
下肢の血管の手術
下肢動脈の手術は、施設によっては心臓血管外科や血管外科が担当します。このブログでは整形・形成外科のまとめで詳しく紹介しています。
看護のポイントまで知りたい方は、整形・形成外科のまとめの「下肢血管の手術」から読んでください。
流れを動画で確認したいときは
トータルアーチ、AVR、カニュレーション、ベントール、VATSは、YouTubeでも時間をかけて解説しています。
心外は管が入る順番や器械を渡す向きが文章だけでは伝わりにくい分野です。記事で流れをつかんでから動画を見ると、つながりやすいと思います。
トータルアーチの完全版やTAVI、CABGなど、踏み込んだ回の一部はメンバーシップ向けに置いています。
心外の勉強、どこから始めるか
ここに並べた記事を、頭から順に読む必要はありません。私が後輩に勧めるなら、この順番です。
- 明日入る手術を1本だけ読む
- 次にカニュレーション。人工心肺の流れは、ほとんどの心臓手術で共通です
- そのあとAVR。止める・置き換える・戻すの型が、いちばん素直に見えます
- トータルアーチとベントールは最後で大丈夫です
心外の器械出しは、先生ごとのやり方の違いも大きい科です。
ただ、先生の癖を覚えるのは、手術そのものの基本の流れを押さえてからで十分です。流れが見えてから癖を足していくほうが、ずっと早く身につきます。
私が助けられたのは、執刀医向けの医学書でした。看護師向けの本より一歩踏み込んでいて、先生と同じ目線で術野を見られるようになります。
一番難しい科だからこそ、1つ流れが見えた日の手応えは大きいです。今日分からなかった場面は、次の一例でちゃんと確かめられますよ。
参考文献
- 日本循環器学会/日本胸部外科学会/日本血管外科学会/日本心臓血管外科学会.2020年改訂版 弁膜症治療のガイドライン.2020.
- 日本循環器学会/日本心臓血管外科学会/日本胸部外科学会/日本血管外科学会.2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン.2020.
🍈 いちばん多い相談は、手当の話です
SNSで受ける相談で、いちばん多いのがこれです。
・オペ室手当がつかない。この先も上がる見込みがない
・オンコールに入っても、手当がほとんど出ない
・あと5万円くらい上げたいけれど、どこを見れば分かるのか知りたい
ここまで読んで勉強しているあなたは、確実に伸びているオペ看です。ただ、その頑張りに手当がついてくるかどうかは、正直なところ病院しだい。オペ室手当もオンコール手当も0円という職場は実在しますし、逆にどちらもきちんと出る病院もあります。
私がいつも見ているのは、求人票の「手当欄」です。転職するかどうかは後で決めればよくて、いまの職場が相場のどのあたりにいるのかを知っておくだけでも、気持ちはずいぶん違いますよ。
オンコールのない働き方を知りたい方は → オンコールなしのオペ室求人の探し方
もう気持ちが固まっている方へ:求人を直接見るなら 看護roo!(登録3分・無料/転職しなくてもOK)。 登録後に確認の連絡が1本きますが、電話が苦手なら「LINE希望」と返信すれば大丈夫です。



















