『カニュレーションの器械出しになると緊張して手が止まる…』
『人工心肺を回す流れが曖昧で、自信が持てない…』
カニュレーションは一つひとつの操作が重要で、流れの理解がそのまま動きやすさに直結する場面です。
この記事では、オペ看護師向けに
「カニュレーション時の器械出し看護」に特化して、
現場でそのまま使える知識を分かりやすく解説します。
この記事で分かること
ポイント理解
「今どの場面なのか」「次に何が来るのか」が分かることで、
焦らず動ける器械出しにつながります。

- 【動画でも解説】この記事の内容を動画で
- 【カニュレーション開始までの手順】皮膚切開・胸骨正中切開・心膜切開
- 人工心肺は「体の代わり」をしている
- 【大前提】ヘパリンが効く前にカニューレは入れない
- 【カニュレーションの準備】上行大動脈・SVC(上大静脈)・IVC(下大静脈)のテーピング
- なぜ経食道エコーで大動脈を見るのか
- 【保存版】カニュレーションで準備する器械・物品
- 送血・脱血チューブ挿入部の巾着縫合
- 上行大動脈への送血チューブ挿入
- SVC(上大静脈)への脱血チューブ挿入
- IVC(下大静脈)への脱血チューブ挿入
- 心筋保護カテーテル・左室ベントカテーテル挿入
- 体外循環の開始・心停止(人工心肺・カニュレーションの開始)
- 心筋保護液の注入・心臓手術開始〜終了
- 人工心肺離脱(体外循環からの離脱)・Hot Shot(ホットショット)
- 大動脈遮断解除・心拍動再開
- 体外循環完全停止(Pump Off)
- カニュレーションで起こりうるトラブル
- カニュレーションチューブの抜去
- カニュレーション終了〜ドレーン留置・胸骨閉鎖・閉創
- カニュレーションでよくあるミスと対策
- カニュレーションのよくある疑問
- 新人オペ看がつまずきやすい3つのポイント
- 手術終了後の申し送りで伝えること
- カニュレーションの用語集
- まとめ
【動画でも解説】この記事の内容を動画で
この記事の内容は動画でも解説しています。通勤中や休憩中の予習・復習にどうぞ。
【カニュレーション開始までの手順】皮膚切開・胸骨正中切開・心膜切開



人工心肺は「体の代わり」をしている
カニュレーションの手順を覚える前に、人工心肺が何をしている装置なのかをつかんでおきましょう。ここが分かると、すべての管の意味が一本につながります。
心臓の手術をするには、心臓を止めなければなりません。しかし心臓が止まれば、血液は流れず、酸素も届きません。数分で全身の臓器が死んでしまいます。
そこで、心臓と肺の役割を機械が肩代わりするのが人工心肺です。
| 本来の臓器 | その働き | 人工心肺での代わり |
|---|---|---|
| 心臓 | 血液を全身へ送り出すポンプ | 機械のポンプが押し出す |
| 肺 | 血液に酸素を渡し、二酸化炭素を受け取る | 人工肺がガス交換を行う |
| 血管 | 血液の通り道 | 回路(チューブ)が代わりを務める |
🔄 だから「体から抜いて、きれいにして、戻す」
人工心肺の基本は、たったこれだけです。
①体から血を抜く(脱血)→ ②機械で酸素を入れる → ③体へ戻す(送血)
この流れを頭に置けば、なぜ脱血の管が2本(上半身と下半身から)で、送血が1本なのかも見えてきます。戻す場所は1か所でいいけれど、集める場所は上下2か所必要だからです。
そして人工心肺が体の代わりをしている間、体温を下げて臓器の酸素消費を抑えるという工夫も加わります。冷却と復温という操作が出てくるのは、このためです。
【大前提】ヘパリンが効く前にカニューレは入れない
カニュレーションを理解するうえで、手順より先に押さえるべきことがあります。血液が固まりにくい状態になっていなければ、絶対にカニューレを入れてはいけないということです。
人工心肺の回路は、血液にとって異物です。触れた瞬間から血は固まろうとします。回路の中で血栓ができれば、それは全身へ飛んでいきます。
🩸 手順は必ずこの順番です
① ヘパリンを投与する
② 血液が固まりにくくなったことを検査値で確認する
③ 確認できてから、カニューレを入れる
投与量や目標値は施設によって異なりますが、「確認してから入れる」という順番は、どこでも変わりません。器械出しとして、この確認の声が聞こえる前にカニューレを渡すことはありません。
術者が手を出しても、「ACTはいかがですか」と一言添えられる。それが人工心肺の器械出しに立つ人の姿勢です。
そして手術の終わりには、プロタミンでヘパリンを中和します。ただし、すべてのカニューレが抜けるまでは中和しません。回路がまだ血液に触れているうちに中和すれば、その場で血栓ができてしまうためです。抜去の順番と中和のタイミングには、こうした理由があります。
【カニュレーションの準備】上行大動脈・SVC(上大静脈)・IVC(下大静脈)のテーピング

カニュレーション前準備では、TEEでの評価と主要血管のテーピングが重要。
器械出しは「準備物」と「血管処理の流れ」を事前に把握しておくことが鍵。
経食道エコー(TEE)による大動脈評価
麻酔科医の協力のもと、経食道エコー(TEE)を使用し、大動脈内膜の肥厚を確認する。
- エコーゼリー
- エコーカバー
→ TEE使用前までに必ず準備
上行大動脈・SVC・IVCのテーピング
テーピングの流れ
- 上行大動脈のテーピング
- SVC(上大静脈)・IVC(下大静脈)のテーピング
上行大動脈
SVC / IVC
血管テーピングでは以下を使用:
- ライトアングル
- 心房鉗子
- ケリー剝離鉗子
① 血管(上行大動脈・SVC・IVC)を鉗子ですくう
② 血管テープ / ベッセルテープを通す
③ テープをモスキートペアン or ペアン止血鉗子で把持
なぜ経食道エコーで大動脈を見るのか
カニュレーションの前に、経食道エコーで上行大動脈を評価します。これは形式的な確認ではありません。この一手が、患者さんが術後に麻痺を残すかどうかを分けることがあります。
動脈硬化が進んだ大動脈の内側には、粥腫(じゅくしゅ)と呼ばれる脂肪の塊やカルシウムの沈着がこびりついていることがあります。ここにカニューレを刺したり、遮断鉗子をかけたりすると——
🧠 剥がれた欠片は、まっすぐ脳へ向かいます
上行大動脈から出ている枝は、そのまま脳へ血液を送る血管です。壁から剥がれた粥腫の欠片は、血流に乗って脳の血管を詰まらせます。
心臓の手術は成功したのに、目が覚めたら麻痺が残っていた——この事態を避けるために、事前に「どこなら安全に触れるか」を確認しているのです。
エコーの結果によっては、送血する場所そのものを変えることもあります。「腋窩動脈から送血します」といった判断が出たら、それは大動脈が危険と判断されたということです。
器械出しとして知っておきたいのは、送血部位が変われば準備も変わるということです。上行大動脈以外から送血する場合、そちらの術野を作る器械と、それに合ったサイズのカニューレが必要になります。エコーを見ている時間は、器械出しにとっても待ちの時間ではありません。
【保存版】カニュレーションで準備する器械・物品
| グループ | 主な内容 | 押さえるポイント |
|---|---|---|
| ①テーピング | 血管テープ、直角鉗子、剥離用の器械 | SVC・IVC・上行大動脈の3か所 |
| ②巾着縫合 | プレジェット付き針糸、ターニケットチューブ、鉗子 | 糸をかける前に本数を確認 |
| ③送血 | 送血カニューレ(サイズ違い)、メス、血管鉗子 | サイズは術者・臨床工学技士と復唱確認 |
| ④脱血 | 脱血カニューレ(SVC用・IVC用)、ターニケット | 2本を扱う。どちらがどちらか常に把握 |
| ⑤心筋保護・ベント | 順行性・逆行性カテーテル、左室ベント | 挿入順を事前確認 |
| ⑥抜去・止血 | 結紮用の糸、止血材、プレジェット | 抜去時は出血しやすい。手元に残す |
🔢 カニューレのサイズは「体格と流量」で決まります
カニューレには複数のサイズがあり、患者さんの体格と必要な血液量に合わせて選ばれます。細すぎれば必要な流量が出ず、太すぎれば血管に入りません。
選定は術者と臨床工学技士が行いますが、器械出しは指定されたサイズを声に出して復唱してから開封してください。カニューレは高額で、開封後は戻せません。
送血・脱血チューブ挿入部の巾着縫合

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