※医療的判断・看護ケアは、必ず各施設のマニュアル・方針に従って実施してください。手術手順や使用器械は施設により異なる場合があります。
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🫀「弓部大動脈置換、何から準備して、いつ器械を出せばいいの…?」
人工血管・体外循環・脳灌流・低体温循環停止——聞き慣れない言葉とスピード感のある手技のなかで、頭が真っ白になった経験はありませんか?弓部大動脈置換術(トータルアーチ)は、心臓外科のなかでもとくに難易度が高い手術のひとつです。
この記事では、手術の全体像・再建の順序・器械出しのポイントを、手順の流れに沿って徹底的に整理しました。“見て覚えるしかない”と思っていた心外の世界を、言葉で理解できるようにまとめています🍈
弓部大動脈置換術は、体外循環(人工心肺)・低体温・脳保護・心筋保護という複数の技術が同時に進む、まさに“総力戦”の手術です。だからこそ、一つひとつの手技が「何のために行われているのか」を理解しておくと、術者の動きが読めるようになり、自信を持って器械を出せるようになります。まずは基礎から一緒に整理していきましょう。
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- 【まずは理解度チェック!】この手術の内容をテスト
- 弓部大動脈置換術(トータルアーチ)とは?基礎知識
- 難しさの理由|手術を理解する4つのキーワード
- 手術中のモニタリング|脳を守るための監視
- 手術前の準備
- 皮膚切開・胸骨正中切開・心膜切開
- アキシラ送血(腋窩動脈送血)が必要な場合
- カニュレーション(送血・脱血・ベントの管を入れる)
- 三分枝(頭部血管)のテーピング
- クーリング(冷却)の開始・循環停止
- 心筋保護(逆行性心筋保護カテーテルの挿入)
- 循環停止中の脳保護(逆行性脳灌流 RCP)
- 上行大動脈の遮断・切開
- 脳分離カニュレーション(選択的順行性脳灌流の確立)
- 人工血管(4分枝)吻合の準備・血栓除去
- 吻合手順(ステップワイズ法)|末梢→3分枝→中枢
- 遮断解除・右房閉鎖・ホットショット・閉胸
- トータルアーチで使う主な特殊器材
- 器械出し看護のポイント総まとめ
- 外回り看護のポイント
- 術後の主な合併症と観察ポイント
- よくある疑問(オペ看Q&A)
- まとめ|弓部大動脈置換術(トータルアーチ)の要点
【まずは理解度チェック!】この手術の内容をテスト
🫀 理解度チェック!弓部大動脈置換術(トータルアーチ)クイズ 全10問
解剖・体外循環・脳保護・吻合手順まで、この手術のポイントがどれだけ頭に入っていますか?
選択肢をタップすると、その場で正解と解説が表示されます。まずは腕試し!
弓部大動脈置換術(トータルアーチ)とは?基礎知識

弓部大動脈置換術(トータルアーチ/Total Arch Replacement:TAR)とは、心臓から出た大動脈の“弓なりにカーブした部分(弓部大動脈)”を、人工血管に置き換える手術です。弓部からは脳や上肢へ向かう3本の血管(3分枝)が枝分かれしているため、それらも一緒に再建する必要があり、心臓外科のなかでも高度な技術を要します。
大動脈の解剖をざっくり整理
大動脈は、心臓を出てから、上行大動脈 → 弓部大動脈 → 下行大動脈という順に走ります。弓部からは、脳と腕に血液を送る次の3本の枝(3分枝)が出ています。
- 腕頭動脈(わんとうどうみゃく):右腕と右脳へ向かう(右総頸動脈・右鎖骨下動脈に分かれる)
- 左総頸動脈(ひだりそうけいどうみゃく):左脳へ向かう
- 左鎖骨下動脈(ひだりさこつかどうみゃく):左腕へ向かう
この3分枝が脳への血流を担っているため、弓部を置換する間は「脳への血流をどう守るか(脳保護)」が手術の最大のテーマになります。トータルアーチが難しいと言われる理由の多くは、ここにあります。
ちなみに、弓部の中でも一部だけを置き換える手術は「部分弓部置換」と呼ばれ、3分枝すべてを含めて弓部全体を置き換えるのが「トータルアーチ(全弓部置換)」です。トータルアーチは3分枝すべてを再建する必要があるため、より手技が複雑で、手術時間も長くなります。近年は、人工血管に加えてステントグラフト(金属の骨組みがついた人工血管)を下行大動脈側に留置する「オープンステントグラフト法(フローズンエレファントトランク)」を併用する施設も増えていますが、本記事では基本となる人工血管置換の流れを中心に解説します。
どんな病気で行われる?
主な適応は、弓部大動脈瘤(こぶ状にふくらむ)と大動脈解離(血管の壁が裂ける)です。とくに、上行大動脈まで裂けが及ぶスタンフォードA型大動脈解離は、破裂すると命に関わるため、緊急手術になることも少なくありません。
| 適応疾患 | どんな状態? |
|---|---|
| 弓部大動脈瘤 | 弓部大動脈がこぶ状にふくらみ、破裂のリスクがある |
| スタンフォードA型大動脈解離 | 上行〜弓部大動脈の壁が裂ける。緊急手術になりやすい |
| 外傷・感染など | まれに外傷性・感染性の大動脈病変で行われることも |
大動脈解離のスタンフォード分類を知っておこう

大動脈解離は、裂けている場所によってスタンフォードA型とB型に分けられます。この分類は「緊急手術が必要かどうか」を左右する、とても重要な考え方です。
| 分類 | 裂けている場所 | 治療の方針 |
|---|---|---|
| スタンフォードA型 | 上行大動脈に裂けが及ぶ | 破裂・心タンポナーデのリスクが高く、原則緊急手術 |
| スタンフォードB型 | 上行大動脈に裂けが及ばない(下行以降) | まず薬で血圧を下げる保存的治療が基本 |
トータルアーチの対象になるのは、主に上行〜弓部に病変が及ぶA型解離や弓部大動脈瘤です。とくにA型解離の緊急手術では、患者さんの全身状態が不安定なことも多く、迅速な準備とチーム連携が求められます。「A型=緊急」という感覚を持っておくと、呼ばれたときの動きが変わります。
難しさの理由|手術を理解する4つのキーワード
トータルアーチを理解するには、次の4つのキーワードを押さえるのが近道です。これらが「なぜその手技をするのか」の答えになります。器械出しに入る前に、ぜひ頭に入れておきましょう。
① 体外循環(人工心肺)

大動脈を置き換える間、心臓と肺の働きを一時的に機械(人工心肺)が肩代わりします。血液を体から抜いて(脱血)、酸素を加えてから体へ戻す(送血)ことで、全身に血液を循環させ続けます。この体外循環があるからこそ、心臓を止めて大動脈を操作できるのです。
人工心肺は、脱血した血液をためる貯血槽、血液に酸素を加える人工肺、血液を送り出すポンプ、血液の温度を調整する熱交換器などで構成されます。この熱交換器を使って血液を冷やしたり温めたりすることで、後述の「低体温」を実現します。人工心肺の操作は臨床工学技士(CE)が担い、外科医・麻酔科医・看護師とチームで連携して進めます。器械出し・外回りともに、この体外循環チームとの息の合った連携が、手術の安全性を大きく左右します。
② 低体温循環停止(じゃっかんじゅんかんていし)

弓部を切り開いて縫うとき、その部分の血流を一時的に止める必要があります。しかし血流を止めると、脳や臓器が酸素不足になってしまいます。そこで体温を下げる(低体温にする)ことで、体の酸素消費を減らし、血流が止まっている間のダメージを最小限に抑えます。これを低体温循環停止と呼びます。「体を冷やして省エネ状態にする」とイメージすると分かりやすいでしょう。
体温をどこまで下げるかは、脳保護の方法によって変わります。かつては20℃前後の超低体温まで下げていましたが、選択的順行性脳灌流(SCP)で脳へ血液を送り続けられるようになったことで、近年は25〜28℃程度の中等度低体温で行う施設が増えています。体温を下げすぎないほうが、復温(体温を戻すこと)にかかる時間が短くなり、出血傾向などの合併症も減らせるためです。冷却と復温には時間がかかるため、手術全体が長時間に及ぶ一因にもなります。
③ 脳保護(のうほご)

低体温だけでは、脳を長時間守りきれません。そこで、循環停止の間も脳だけには血液を送り続ける工夫をします。代表的な方法が2つあります。
- 選択的順行性脳灌流(SCP):弓部の3分枝に細いカテーテル(脳分離カテーテル)を挿入し、脳へ順行性(正しい向き)に酸素化血を送る方法。生理的で時間制限が少なく、日本で最も広く使われています。灌流圧はおおむね40〜60mmHg、灌流量は9〜12mL/kg/分程度が目安です。
- 逆行性脳灌流(RCP):上大静脈(SVC)から酸素化血を逆向きに送り、脳を保護する方法。単独では脳血流を十分に確保しにくいため、現在は短時間の循環停止を補う補助的な脳保護や、血管内に落ちた粥腫・血栓を洗い流す目的で用いられます。
⚠️ 「逆行性脳灌流」と「逆行性心筋保護」は別物です
名前が似ていて混同されがちですが、まったく違う技術です。
・逆行性脳灌流(RCP)=上大静脈(SVC)から酸素化血を送り、脳を守る
・逆行性心筋保護=冠静脈洞(レトロカテーテル)から心筋保護液を送り、心臓(心筋)を守る
「レトロカテーテル」は心筋を守るためのもので、脳を守るものではありません。ここを正しく理解しておくと、手術の流れが混乱しなくなります。
④ 心筋保護(しんきんほご)

心臓を止めている間、心臓の筋肉(心筋)も酸素不足でダメージを受けます。これを防ぐのが心筋保護です。心筋保護液(グルコースやカリウムなどを含む冷たい液)を心臓に流し込み、心臓を止めながら守ります。流し方には、大動脈側から流す順行性と、冠静脈洞(心臓の静脈の出口)にカテーテル(レトロカテーテル)を入れて逆向きに流す逆行性があります。
手術中のモニタリング|脳を守るための監視

トータルアーチでは、脳を守れているかを確認するための特別なモニタリングが行われます。通常の心電図・血圧・SpO2に加えて、次のような監視が重要になります。看護師も、これらが「何を見ているか」を知っておくと、異常の早期発見に役立ちます。
- 脳局所酸素飽和度(rSO2/NIRS):おでこに貼ったセンサーで、脳に酸素が届いているかを左右それぞれ測定します。左右差や急な低下は、脳への血流トラブル(脳灌流の不良)のサインになります
- 体温(複数部位):直腸温・膀胱温・鼻咽頭温など、複数の場所で体温を測り、冷却・復温の状態を把握します
- 両側の動脈圧:左右の腕(橈骨動脈)などで血圧を測り、送血や脳灌流の左右差を確認することがあります
- 尿量:全身への血流(臓器灌流)が保たれているかの目安になります
🔎 なぜ左右の脳酸素を見るの?
弓部の3分枝は、左右の脳へ別々に血液を送っています。脳分離カテーテルがずれたり、片側の血流が悪くなったりすると、左右どちらかの脳酸素だけが下がることがあります。rSO2の左右差に注目することで、脳灌流のトラブルを早期に察知できるのです。
手術前の準備

まずは術野の準備とセッティングです。トータルアーチでは体外循環を使うため、通常の開胸手術より準備する物品・機器が格段に多くなります。
- 術野準備:前胸部〜膝下までを広範囲に消毒します(人工血管や送血用の血管を採取・確保する可能性があるため、下肢まで含めて広く消毒します)
- ドレーピング:滅菌ドレープで覆い、胸骨正中切開予定部にイソジンドレープを貼付します(方法は施設により異なります)
- 器械・機器のセッティング:電気メス・サクション・開胸鋸・体外循環関連機器などを準備。とくに体外循環を使うため、回路のリークチェック・カニューレ径の確認を必ず行います
🔎 外回り看護ポイント
トータルアーチは長時間手術になり、大量出血・輸血の可能性が高い手術です。事前に輸血・血液製剤の準備、急速輸血・加温装置、自己血回収装置(セルセーバー)の準備状況を確認しておきましょう。低体温を使うため、復温時の体温管理も重要になります。
皮膚切開・胸骨正中切開・心膜切開






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