※医療・看護ケアや手順・器械は施設の方針に従ってください
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「たまにしか当たらないから、毎回はじめての手術みたいになる」
脳外科、眼科、耳鼻科。消化器や整形に比べると件数が少なく、器械の名前も独特です。
前に入ったのが2か月前で、手順をほとんど覚えていない。そんな日も多い科だと思います。
この3科には共通点があります。術野が小さく、守るものがすぐ隣にあることです。
脳なら神経と血管、眼なら視力、耳鼻科なら声と気道。だから、手術の大きさのわりに緊張が高い科でもあります。
このページは、首から上の手術の記事を部位ごとにまとめた一覧です。明日入る手術だけ拾い読みしても大丈夫です。
術式の前に|首から上の手術に共通すること
3科の手術は、小さな器械を、小さな術野へ、正確に渡すことが中心になります。
顕微鏡や内視鏡を使う手術が多く、術者はモニターや接眼レンズから目を離せません。器械出しが手のひらへ確実に置けるかどうかで、手術のテンポが変わります。
もうひとつは、患者さんが起きている手術があることです。眼科の手術の多くは局所麻酔で行われ、室内の会話はすべて聞こえています。
妊娠中、リーダーが私に多く割り振ってくれたのは、脳外科のマイクロ手術や眼科の手術でした。座ったまま長く器械出しができるからです。
座っていられる代わりに、手元の作業はとても細かくなります。ここに並ぶ手術は、体力より集中力を使う手術だと思っておくと準備しやすくなります。
脳神経外科の手術
脳外科は、開けて閉じる流れがどの手術でもほぼ同じです。まず開頭・閉頭を押さえると、あとは中で何をするかの違いになります。
開頭・閉頭の器械出し
多くの脳外科の手術では、頭を3点ピンで固定したら、その後は動かせません。体位を作る数分間で決まったことが、そのまま数時間続きます。
眼の圧迫、耳介の折れ込み、首の角度、ドレープの下に入るライン。固定の前に一つずつ指で確かめます。
器械出しで絶対に失えないのは、綿片(コットノイド)と骨弁の2つです。綿片は糸を必ず術野の外に出し、硬膜を閉じる前に数を合わせます。
外した骨弁は、あとで戻す患者さんの体の一部です。脳の腫れが強ければ、戻さずに保存へ回ることもあります。
頭蓋形成術
頭蓋形成術は、減圧開頭で骨を外したあとの部分を塞ぐ手術です。準備は「何で塞ぐか」で別の手術といっていいほど変わります。
保存していた自分の骨、形を合わせて作った人工骨、その場で切って曲げるチタンメッシュ。お腹の皮下に骨を保存していた場合は、腹部にもう1つ清潔野が要ります。
前日の情報収集では、術式名だけでなく骨材まで確認してください。
固定は「ドリル→洗浄→スクリュー→次のスクリューを構える」の繰り返しです。この4手を1セットで体に入れておくと、術者の手が戻る前に次を構えられます。
眼科の手術
眼科の手術は、ほとんどが局所麻酔です。患者さんを動かさないことが、外回りのいちばん大きな仕事になります。
白内障手術
白内障手術は、1件15〜20分ほどの手術が1日に何件も続くことがあります。いちばん重大な事故は、出血でも感染でもなく眼内レンズの取り違えです。
レンズは、一人ひとりの眼に合わせて度数が決められています。違う度数を入れると、手術はきれいに終わっても、患者さんは見えないまま目を覚まします。
氏名、左右、度数、種類を、外回りと器械出しの2人で声に出してから開封する。1件終わるごとに机の上を空にする。
流れ作業になったときがいちばん危ない手術です。
強膜内固定
通常の白内障手術は、水晶体を包む袋の中にレンズを置く手術です。強膜内固定は、その袋が使えない眼のための手術です。
袋が破れていたり、袋を吊っているチン小帯が弱っていたりすると、レンズを置いても支えられません。そこで、眼球の丈夫な壁である強膜にレンズの脚を埋めて固定します。
極小の器械と細い針糸を使うので、器械出しは小物の管理が要です。外回りは、咳が出そうになったら動く前に声をかけてもらう約束を、入室の時点でしておきます。
硝子体手術
硝子体手術は、手術の最後に眼の中へガスなどを入れて終わることがあります(タンポナーデ)。この理屈が分かると、術後のうつ伏せの意味が説明できるようになります。
ガスは上に浮く力で、内側から網膜を押さえます。押さえたい場所が眼の奥なら、患者さんが下を向いていないとガスが届きません。
ガスが入っている間は、飛行機に乗れないなどの注意もあります。何を入れて終わったかを病棟へ確実に申し送るのが、手術室看護師の役目です。
トラベクレクトミー(線維柱帯切除術)
緑内障の手術で、看護の判断がいちばん要るのはマイトマイシンC(MMC)を扱う場面です。MMCは抗がん剤で、扱う私たち自身が曝露の対象になります。
見落とされやすいのは、薬液より使い終わったガーゼと洗浄の廃液です。ふつうのガーゼと混ぜずに受け皿を分け、施設が決めた廃棄ルートへ回します。
私も妊娠中は、MMCを扱う緑内障手術の担当から外してもらいました。担当の考え方は施設ごとに決まっているので、部署のルールを確かめておいてください。
患者さんは起きています。室内で「抗がん剤」という言葉をどう扱うかも、あらかじめ決めておくと安心です。
鼻・耳・のどの手術
耳鼻科の手術は、術野のすぐそばに気道があるのが共通点です。出血がそのまま呼吸の問題につながる場面が多くあります。
口蓋扁桃摘出術(レク)
レクは短い手術ですが、出血に強く気を遣います。扁桃の被膜のすぐ外側を血管が走っていて、正しい層を外れると一気に出血するからです。
術前に確認したいのは歯の状態です。小児では乳歯が抜けかけていることがあり、開口器で外れれば誤嚥につながります。
覚醒のときは、咽頭のガーゼが抜けたかを数で確かめてから抜管へ。しきりに飲み込む動きは、のどに血が流れているサインのことがあります。
ESS(内視鏡下副鼻腔手術)
ESSは、副鼻腔を手前から奥へ開けていく手術です。奥へ進むほど、眼や脳、太い血管との距離が近づきます。
この手術では、出血は合併症である前に視野の問題です。少しの血でも内視鏡のレンズが汚れ、術者は何も見えなくなります。
器械出しはモニターを見ていられる位置にいます。画面が曇り始めた瞬間に動けると、「見えない」と言われる前に手が打てます。
鼓室形成術
鼓室形成術は、鼓膜から内耳へ音を運ぶ3つの耳小骨のバトンリレーを作り直す手術です。Ⅰ〜Ⅳ型の分類も、このリレーがどこで途切れているかで決まります。
顕微鏡をのぞいたまま、長い時間細かい操作が続きます。外回りは、顕微鏡のセッティングと、長時間の同じ姿勢への除圧を担います。
中耳のそばには顔面神経が走っています。神経モニタリングを使う日は、筋弛緩薬の扱いを麻酔科医と術者で共有しておきます。
ラリンゴマイクロサージャリー(LMS)
LMSに初めて入ると、清潔の扱いに戸惑うと思います。術野がもともと菌のいる口の中なので、守るものが他の手術と違うのです。
レーザーを使う日は、気道の中の火災に備えます。火の元(レーザー)、燃えるもの(気管チューブや綿球)、酸素が、数センチの範囲にそろう手術だからです。
器械出しが気にかけたいのは、チューブの周りに置く湿らせた綿球です。乾けば、防御壁が燃料に変わります。
首の手術|気管・甲状腺・リンパ節
首の手術は、術後に気道が狭くなる危険を見越して終わらせる手術です。手術室を出たあとの観察まで含めて準備します。
気管切開術
気管切開では、カニューレの指示が一言で飛んできます。カフの有無、内筒の有無、側孔の有無、サイズ。
この4つの軸で読むと、指示の意味がその場で分かります。
器械出しは、指示されたサイズの1つ上と1つ下も、開けずに手元へ置いておきます。実際に気管を開けるまで、合うサイズは分からないからです。
渡す前にカフに空気を入れて漏れを確かめ、空気を抜いてから渡します。いちばん怖いのは、手術直後にカニューレが抜けて気道を失うことです。
甲状腺摘出術
甲状腺の手術は、大量に出血するわけでも、何時間もかかるわけでもありません。それでも緊張が高いのは、すぐ隣に傷つけてはいけないものが集まっているからです。
声を出すための反回神経、カルシウムを調整する副甲状腺、そして気管。術者が神経を確かめている時間を、器械出しは急かさないようにします。
術後の出血は、量より場所が問題です。首の中に血がたまると気管が外から押されます。
覚醒時は首の腫れ、声の変化、呼吸のしづらさの3つを見てください。
頚部郭清術
頚部郭清術は、リンパ節と脂肪だけを取り除き、神経と血管を残していく手術です。
副神経を傷つければ肩が上がりにくくなり、舌下神経なら舌が動きにくくなります。術者がひとつずつ確認している「間」を読めると、次の器械を先に構えられます。
剥離と止血を細かく繰り返すので、剪刀、バイポーラ、結紮糸を切らさないことが基本です。郭清した組織は、どのレベルか、左右どちらかを正確にラベリングして提出します。
脳外科で使う器械
脳外科では、組織を「切る」より「残しながら削る」器械が活躍します。その代表がキューサーです。
CUSA(キューサー・超音波手術器)
キューサーは、同じ超音波を使うハーモニックなどと混同されがちですが、止血する機械ではありません。水分の多い組織だけを砕いて吸い、弾力のある血管や神経を残します。
脳腫瘍の手術で周りの血管を守りながら腫瘍だけを取れるのは、この性質のおかげです。裏を返せば、露出させた血管は別に処理が要ります。
「効きが悪い」と言われたら、まずチップの締め付けを疑います。トルクレンチの「カチッ」を聞くまで締めるのが、組み立ての約束です。
手順を動画で確認したいときに
開頭・閉頭、頭蓋形成術、白内障、硝子体手術、レク、気管切開は、YouTubeでも流れに沿って解説しています。
顕微鏡や内視鏡の手術は、術者がいま何を見ているかが文章だけでは伝わりにくい分野です。記事で流れをつかんでから動画を見ると、つながりやすいと思います。
頚部郭清術とESSの前編・後編など、踏み込んだ回の一部はメンバーシップ向けに置いています。
首から上の手術、どこから覚えるか
ここに並べた記事を、頭から順に読む必要はありません。私が後輩に勧めるなら、この順番です。
- 明日入る手術を1本だけ読む
- 脳外科なら開頭・閉頭から。体位、綿片、骨弁と、顕微鏡手術の基本の作法がそろっています
- 眼科なら白内障から。強膜内固定と硝子体手術は、白内障の手順が分かってから読むとつながります
- 耳鼻科は気管切開から。首の解剖が入ると、甲状腺と頚部郭清がぐっと読みやすくなります
件数の少ない科は、覚えたころに次の症例まで間が空きます。だから、入るたびに少し忘れているのは自然なことです。
「手術室が漠然と苦手」という相談をもらったとき、私が伝えてきたのは、今日経験したことから1つずつ紐解いて復習することでした。
器械の名前を1つ、術者が慎重になった場面を1つ。それだけで十分です。
次にその手術が回ってきた日、このページを開いて答え合わせをしてみてください。前回より一手早く器械を構えられたら、それが積み重なっている証拠です。


















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