手術室に配属されたばかりの頃、器械出しのテーブルに並ぶ無数の縫合糸を前に、思考が止まった経験はありませんか?
「3-0のバイクリル丸針で」
そう言われた瞬間、どれを出せばいいのか分からない。
「さっきと同じ部位なのに、なぜ違う糸を使うの?」
そんな疑問を抱えたまま、必死に手術についていく。
縫合糸と縫合針の理解は、多くの新人看護師が最初にぶつかる大きな壁です。 しかし、この壁を越えた瞬間、器械出しは一気に変わります。
縫合糸の理解 = 先読み力の向上
執刀医が「なぜこの糸を選んだのか」が分かるようになると、 次に行われる操作が自然と見えるようになります。
その結果、器械出しは
「ただ渡す作業」から「意図を持って支える仕事」へと変わり、
手術そのものが驚くほど理解できるようになります。
この記事では、数多くある縫合糸・縫合針の中から、 臨床現場で本当によく使われるものだけに絞り、
- それぞれの特徴
- 使い分けの理由
- 現場での考え方
を、実践に直結する形でわかりやすく解説していきます。
自信を持って「その糸」を渡せるように。
器械出しが一段レベルアップする第一歩を、ここから一緒に踏み出しましょう。
縫合糸の基本分類【これを見れば全部分かる】

縫合糸とは何か?その役割と目的
縫合糸の役割|「治るまで支える」という本質
縫合糸の最大の役割は、単に組織を縫い合わせることではありません。 切開された組織や血管を適切な位置に保ち、組織自身が治癒するまでの間、安定した強度で支え続けることにあります。
つまり縫合糸は「一時的な補助役」であり、最終的に傷を治すのはあくまで患者自身の治癒力です。 そのため、糸は強すぎても弱すぎてもいけないという特徴があります。
組織ごとの治癒速度と縫合糸の考え方
| 組織 | 治癒の特徴 | 求められる縫合糸の役割 |
|---|---|---|
| 皮膚 |
比較的早く治癒する 外部から観察・管理しやすい |
短期間の保持で十分 抜糸を前提とした選択が多い |
| 筋膜(腹壁など) |
治癒に時間がかかる 体の支持構造として重要 |
長期間の強度保持が必要 再離開を防ぐことが重要 |
| 消化管 |
比較的ゆっくり治癒 内容物による影響を受けやすい |
適度な保持力と安全性の両立 漏れを防ぐことが重要 |
縫合糸選択の基本原則
縫合糸を選ぶ際に最も重要なのは、「組織が治るまでの時間」と「糸が強度を保てる期間」を一致させることです。
・治癒が早い組織 → 短期間の保持で十分な糸を選択
・治癒が遅い組織 → 長期間強度を維持できる糸を選択
ポイント:
縫合糸は「とりあえず強いものを使えば良い」というわけではありません。
必要以上に強い糸は異物反応を引き起こす可能性があり、逆に弱すぎると創部離開のリスクが高まります。
縫合糸は“治癒をつなぐ橋渡し”
縫合糸の役割は、組織を無理に治すことではなく、治癒が完了するまで適切に支えることです。 そのためには、組織ごとの治癒速度を理解し、それに見合った糸を選択することが不可欠です。
この視点を持つことで、「なぜこの縫合糸が選ばれているのか」が見えるようになり、器械出しの精度と理解は大きく向上します。



コメント