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「コッヘル!」と言われて、
手に取ったのがペアンだったことはありませんか?
器械台に並ぶ鉗子は、どれも同じ形に見えますよね。焦るほど、どっちがどっちか分からなくなります。
答えは、先端に小さな鉤(こう)があるかどうかです。この記事では見分け方に加えて、手術のどの場面でどちらが出るのかを、1年目の目線で整理します。
手術室で10年働き、診療科リーダーとして新人指導にもあたってきた私も、最初につまずいたのはこの2本でした。
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コッヘルとペアンの違いは「先端の鉤」だけ
結論から言うと、先端に小さな鉤(こう)があればコッヘル、なければペアンです。

どちらも、組織をつかむ・血を止めるための止血鉗子(しけつかんし)の仲間です。長さもリングの形も、手元のラチェット(カチカチ止まる留め具)もほぼ同じです。
だから新人のうちは、遠目ではまず区別できません。見るべき場所は、先端の数ミリだけです。
| コッヘル | ペアン | |
|---|---|---|
| 先端 | 小さな鉤がある(有鉤) | 鉤がない(無鉤) |
| 得意なこと | 滑らせずに強く引く | 止血・結紮・剥離 |
| 主な相手 | 筋膜・皮下など硬い組織 | 血管・柔らかい組織 |
| 向かない相手 | 腸管・残す血管・チューブ | 強く引きたい硬い組織 |
コッヘルは先端に「1対2の小さな歯」

コッヘルの先端をよく見ると、片側に1本、もう片側に2本の小さな歯があり、閉じるとかみ合います。これが「鉤」です。
鉤があるので、つかんだ組織が滑りにくくなります。覚え方は、「コッヘルのコは、鉤(コウ)のコ」です。
ペアンは先端に「横溝だけ」

ペアンの先端には鉤がなく、内側に横向きの溝が並んでいるだけです。先端の形も丸みがあります。
覚え方は、「ペアンのペは、ぺったんこのペ」です。歯がないぶん、コッヘルより組織を傷つけにくいのが特徴です。
名前は、2人の外科医から
コッヘルはスイスの外科医テオドール・コッハー、ペアンはフランスの外科医ジュール・エミール・ペアンの名前に由来します。
どちらも19世紀後半の外科医です。名前から形は想像できないので、名前ではなく先端で覚えるのが近道です。
注意:「鉤のないコッヘル」もある
日本の手術室では「有鉤=コッヘル、無鉤=ペアン」と呼び分けるのが一般的です。
ただし製品名としては、鉤のない「コッヘル止血鉗子 無鉤」も販売されています。施設によって呼び方が違うので、最後は先端を目で確かめるのがいちばん安全です。
使い分けは「体に残す組織か」で決まる
迷ったら、その組織が体に残るかどうかを見てください。残すならペアン、強く引きたい・取り除く側ならコッヘルです。
私が新人のころ、先輩に言われたのが「器械は何をしたいのか考えてみな」という言葉でした。形には、必ず理由があります。
| 組織・場面 | 渡す鉗子 | 理由 |
|---|---|---|
| 筋膜を持ち上げる | コッヘル | 滑ると視野がつくれない |
| 皮下など硬い組織の出血 | コッヘル | 組織が硬く、滑りやすい |
| 切り取る標本側 | コッヘル | 外れないほうが安全 |
| 血管を挟んで結紮する | ペアン | 歯で血管壁を傷つけない |
| 結紮用の糸を持っておく | ペアン | 糸を傷めにくい |
| 組織のすき間を広げる | ペアン(曲) | 先端で剥離できる |
どの鉗子を使うかは、最終的には術者が決めます。施設や術者によって違うこともあるので、表は「考え方の目安」として使ってください。
コッヘルが出る場面
代表は、筋膜を持ち上げるときです。開腹や閉腹で筋膜の端を強く引くとき、ペアンでは滑って抜けてしまいます。
皮膚を切ったあと、真皮など硬い組織の出血点をつかむときにも使われます。切除する標本の側を、外れないように持つときもコッヘルです。
ペアンが出る場面
代表は、血管を挟んで、そのあと糸で縛る(結紮する)ときです。結紮用の糸を挟んで持っておくときにも使います。
先端で組織のすき間を広げる「剥離」にも使われます。整形外科や形成外科でもよく出てくる、いちばん出番の多い鉗子のひとつです。
ペアンも「強く挟めば潰れる」
ここは誤解されやすいところです。ペアンは鉤がないだけで、組織をしっかり挟んで止める止血鉗子です。
挟んだあとに結紮する血管なら問題ありません。一方で、体に残す太い血管を一時的に止めるときは、ペアンではなく血管鉗子のような専用の器械を使います。
腸管も、ペアンより腸鉗子のように、柔らかく挟める専用の鉗子が使われることが多いです。「無鉤=何にでも優しい」ではない、と覚えておきましょう。
直(ちょく)と曲(まがり)の使い分け
コッヘルにもペアンにも、先端がまっすぐな「直」と、カーブした「曲」があります。
目安としては、糸や組織を「持っておく」なら直、すき間に沿わせて剥離するなら曲です。ただし、まずは鉤の有無を最優先で判断しましょう。
開腹手術の流れで見る、出番の順番
手術の段階が分かると、次に出る鉗子が予想できます。開腹手術を例に、流れで見てみましょう。
| 段階 | 出やすい鉗子 | やっていること |
|---|---|---|
| 皮膚〜皮下 | コッヘル・ペアン | 出血点をつかむ |
| 筋膜を開く | コッヘル | 端を持ち上げて切る |
| 腹腔内の操作 | ペアン | 血管を挟む・糸を持つ |
| 標本を切り離す | コッヘル(標本側) | 外れないように持つ |
| 閉腹 | コッヘル | 筋膜の端を持ち上げる |
皮下の出血は、電気メスで止めることも多いです。腹膜を持ち上げるときは、鑷子やペアン、ミクリッツ鉗子など、施設や術者によって使う器械が違います。
先輩は「組織」を見て手を伸ばしていた
新人のころ、先輩の器械出しを見ていて気づいたことがあります。先輩は、術野に硬そうな組織が見えた瞬間に、もうコッヘルを手に取っていました。
先生が手を出す0.5秒前には、柄の向きを変えて待っていたのです。「なぜ今それを用意したのか」をメモするようになってから、私の器械出しは目に見えて速くなりました。
先輩が見ていたのは、器械台ではなく術野です。指示を待つより先に、組織を見る。
これがコッヘルとペアンを迷わなくなる一番の近道でした。
コッヘルを血管に使わない理由
コッヘルは、力を歯の先の「点」に集中させる鉗子です。だから滑らない代わりに、柔らかい組織は傷つきます。
鉤は「面」ではなく「点」で挟んでいる
コッヘルで挟むと、力は先端の歯に集中します。面で挟むペアンと比べて、一点あたりの圧がずっと高くなります。
だから滑らず、外れず、強く引けるわけです。その代わり、歯が当たったところは傷がつきます。
だから「あとで使う組織」には使えない
この理解があると、使い分けを自分で考えられるようになります。
- 切り離して取り除く側:コッヘルでよい。外れないほうが安全
- 体に残す側・あとで縫う側:ペアン。傷んだ組織は治りが悪くなる
- 腸管・残す血管:コッヘルは使わない。壁に穴があくおそれがある
術者が標本側にコッヘル、患者さん側にペアンをかけているのを見たら、この考え方が働いています。
チューブを挟むときも有鉤は使わない
同じ理由で、ドレーンや点滴のチューブを鉗子で一時的に止めるときも、有鉤のコッヘルは使いません。歯でチューブに穴があくおそれがあるからです。
病棟でチューブをクランプするときも同じです。専用のクランプがあれば、そちらを優先します。
コッヘルは術野の外でも働いている
術野の外で使った鉗子ほど、数え忘れやすくなります。ここはカウントとセットで覚えておきましょう。
強く挟んで外れないという性質から、コッヘルは固定具としても使われます。
- ドレープ(滅菌布)の重なりをとめる
- 吸引チューブや電気メスのコードを、ドレープにとめる
ドレープの固定には、布鉗子(タオル鉗子)を使う施設も多いです。どちらを使うかは施設のルールに合わせてください。
鉗子はカウントの対象
手術医療の実践ガイドライン(改訂第三版)は、カウントの対象をガーゼだけでなく、針などの鋭利物、手術器械、小物品にも広げています。
鉗子は手術器械そのものです。ドレープにとめた本数は、とめた時点で自分の中で数えておきましょう。
片づけのときに、布と一緒に丸められてしまうことがあるからです。
展開・返却時に先端とラチェットを確認
鉗子の添付文書では、使用前に破損や異常がないか確認し、異常があれば使わないよう求められています。
器械を展開するときは、1本ずつラチェットを開けて、先端の鉤の有無とかみ合わせを見ます。1段目でゆるく外れる鉗子は、術中に外れるおそれがあります。
返ってきたコッヘルは、歯のすき間に組織片や血のかたまりが入りやすいです。開いて拭いてから戻すと、次に使うときに固まって開かない、を防げます。
鉗子・鑷子の全体像と渡し方は、鉗子・鑷子の種類と渡し方にまとめています。この記事は、コッヘルとペアンの違いと使い分けに絞っています。
新人がやりがちな4つのミス
コッヘルとペアンの取り違えは、知識よりも「確かめずに渡す」ことから起きます。

ミス①:聞き取れず、なんとなく渡す
マスク越しの声や機械の音で、指示が聞き取れないことはよくあります。いちばん危ないのは、当てずっぽうで渡すことです。
【対処法】術野を見て、術者が何をしようとしているかを考えます。それでも迷ったら「コッヘルですか?ペアンですか?」と短く聞き返して大丈夫です。
ミス②:「小さいペアン」が分からない
「小さいペアン」「細いの」と言われたときは、モスキート鉗子を求められていることが多いです。
【対処法】モスキートにも、鉤の有無と直・曲の組み合わせがあります。術前に「今日はモスキートを使いますか?」と先輩に確認しておくと安心です。
ミス③:コッヘルとペアンを混ぜて置く
サイズ順にきれいに並べても、種類が混ざっていると、急いでいるときに取り違えます。
【対処法】器械台では、コッヘルとペアンの置き場所を分けて決めておきます。展開のときに1本ずつ先端を見て、決めた場所に置く習慣をつけましょう。
ミス④:渡す直前に先端を見ていない
置き場所を決めていても、返ってきた鉗子が別の場所に戻されていることがあります。
【対処法】手に取ったら、渡す前に一瞬だけ先端を見ます。ラチェットを1段だけ掛け、リングを術者の手のひらに当てて渡します。
曲がりのある鉗子の向きや、渡し方の基本は鉗子・鑷子の種類と渡し方で詳しく解説しています。
私がコッヘルとペアンを覚えるまで
名前ではなく「形と用途」をセットで覚えると、忘れなくなりました。
新人時代の私は、毎日泣きながら帰っていました。似た形の鉗子が並ぶ器械台の前で、どっちがどっちか分からなくなったこともあります。
そこで「器械は何をしたいのか」を考えるようにしました。ペアンは先が丸いから、柔らかい組織を挟む。
コッヘルは歯があるから、硬い筋膜を滑らせずにつかむ。
理由で覚えると、名前がとっさに出てこなくても「この場面ならこの形」と手が伸びるようになりました。
覚え方の3ステップ
- 術前:手術の流れを紙に書き出し、コッヘルとペアンが出る場面に印をつける
- 術中:先輩や術者が、どの組織でどちらを使ったかを見る
- 術後:着替える前の5分で、使い分けた場面をメモに残す
術者が見ている景色を知るために、執刀医向けの手術書を読んだのも役に立ちました。術者と同じ目線で術野を見られると、次に必要な鉗子が分かってきます。
器械が覚えられなくてつらいときは、手術室の新人が覚えられない・つらいときも読んでみてください。
よくある質問
コッヘルとペアンについて、新人のうちによく出る疑問に短く答えます。
Q. ケリーやモスキートとの違いは?
ケリーはペアンに似ていますが、先端が細く、剥離によく使われます。モスキートは小さく細い鉗子で、細い血管の止血などに使います。
形の比較は鉗子・鑷子の種類と渡し方にまとめています。
Q. メッツェン・クーパーとの違い
メッツェンやクーパーは剪刀(せんとう=ハサミ)で、切ったり剥離したりする器械です。ペアンやコッヘルは「挟む」器械なので、役割が違います。
Q. 「鉗子」と「鑷子」の違いは?
鉗子(かんし)は、ラチェットで挟んだまま止めておける器械です。鑷子(せっし)はピンセットのような器械で、手を離すと開きます。
Q. 有鉤と無鉤、どちらか迷ったら?
「この組織は体に残るか」「滑ると困るか」を考えます。それでも分からなければ、術者に確認します。
分からないまま渡すより、ずっと安全です。
まとめ:コッヘルとペアンの選び方
先端の鉤を見て見分け、体に残す組織かどうかで使い分ける。この2つができれば、取り違えはぐっと減ります。

✅ コッヘルとペアンのマスターチェック
- 先端の鉤の有無で、コッヘルとペアンを見分けられる
- 「鉤のないコッヘル」もあると知っている
- 体に残す組織にはペアン、強く引く側にはコッヘルと説明できる
- ペアンも強く挟めば組織が潰れると知っている
- 開腹手術のどの段階でどちらが出るか予想できる
- 展開時に先端とラチェットを1本ずつ確かめている
- 迷ったら、術野を見てから短く確認できる
はじめから迷わず渡せる新人はいません。私も、この2本の前で固まっていた時期がありました。
まずは次の手術で、術者がコッヘルを使った組織を1つだけ覚えて帰ってみてください。焦らなくて大丈夫です。
その1つが、1年後の自信につながります。
🍈 手術室の手当、ちゃんとついていますか?
同い年・同じ年数なのに、病棟の同期と月8〜10万円の差がついたことがありました。
差の正体は基本給ではなく、夜勤と手当です。自分の手当が相場のどこにあるか、確かめる3ステップをまとめました。
※筆者の実体験です。差は勤務先や夜勤の回数によって変わります
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