電気メスとバイポーラの違い|電流の通り道で覚える対極板と熱傷対策

オペ看勉強まとめ
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「対極板、なんとなくいつもの場所に貼っていませんか?」

電気メスは、ほぼ全ての手術で使います。でも「なぜ対極板が必要なのか」「バイポーラにはどうして要らないのか」を説明できる人は、意外と多くありません。私も新人の頃は、先輩の貼る場所を真似しているだけでした。

この2つの違いは、覚えることが多いように見えて、実は「電流がどこを通るか」という一点に集約されます。そこさえ掴めば、対極板を貼る位置も、熱傷が起きる理由も、ペースメーカーの患者さんでバイポーラが選ばれる理由も、全部同じ理屈でつながります。

この記事では、手術室看護師10年の経験と公的資料をもとに、電気メスとバイポーラの違いを現場で使える形で整理します。読み終わる頃には、対極板を貼る手が「なんとなく」から「根拠あり」に変わっているはずです。

  1. 電気メスとバイポーラの違いをオペ看めろん直接講義で学ぶ
  2. 結論:違いは「電流がどこを通るか」だけ
  3. そもそも電気メスはなぜ組織を切れるのか
    1. 熱を出しているのは、器械ではなく組織のほう
    2. 体に電気を流しているのに、なぜ感電しないのか
  4. モノポーラ:電流が患者さんの体を一周する
    1. 電流の道筋を指でなぞってみる
    2. 切開・凝固・混合は「波の形」が違う
    3. 器械出しが見ているポイント
  5. バイポーラ:電流は先端の数mmしか通らない
    1. なぜ対極板が要らないのか
    2. バイポーラが選ばれる場面
    3. 器械出しが見ているポイント
  6. 対極板:ここが熱傷の分かれ道になる
    1. 貼る場所の選び方には理由がある
    2. 貼ってはいけない場所
    3. やってはいけない3つの扱い
    4. 接触監視機能とアラームの意味
  7. 熱傷は、この4つのパターンで起きる
    1. ① 対極板そのものの熱傷
    2. ② 分流熱傷(電流が別の道を見つけてしまう)
    3. ③ 直達熱傷(メス先が直接触れる)
    4. ④ 腹腔鏡でだけ起きる2つの事故
  8. 引火:酸素とアルコールがそろうと、手術室は燃える
    1. 報告されている事例
    2. アルコール消毒液が乾く前に通電しない
  9. ペースメーカー・ICDの患者さんではどう考えるか
  10. 外回りと器械出し、それぞれの動き方
  11. 新人がつまずく5つのポイント
    1. ① 「切れないから出力を上げる」の順番
    2. ② バイポーラに対極板を貼ってしまう/逆に忘れる
    3. ③ 対極板を「とりあえずいつもの場所」に貼る
    4. ④ アラームを「様子見」する
    5. ⑤ 使用直後のメス先を組織の上に置く
  12. まとめ:電流の通り道を、指でなぞれるようになる
    1. 参考文献
  13. よくある質問
    1. Q. 電気メスとバイポーラ、どちらが止血力が強いですか?
    2. Q. 対極板は必ず大腿に貼るものですか?
    3. Q. リガシュアやハーモニックとは何が違うのですか?
    4. Q. 対極板のアラームが鳴らなければ、貼り方は間違っていないということですか?
    5. Q. 1年目です。まず何から覚えればいいですか?
  14. あわせて読みたい

電気メスとバイポーラの違いをオペ看めろん直接講義で学ぶ

この記事の内容は、動画でも解説しています。手を動かしながら聞きたい方はこちらからどうぞ。

結論:違いは「電流がどこを通るか」だけ

先に答えを言ってしまいます。モノポーラ(一般に「電気メス」と呼ばれるもの)とバイポーラの違いは、電流が患者さんの体を通り抜けるかどうかです。

モノポーラ(電気メス)バイポーラ
電流の道筋メス先 → 体全体 → 対極板ピンセットの先端どうしの間だけ
対極板必要不要
できること切開・凝固・広い範囲の止血凝固(止血)が中心
周囲への熱の広がり広い狭い
得意な場面皮膚切開、広い剥離脳外科、細い血管、繊細な部位
熱傷のリスク対極板・分流など体のどこでも先端の周囲に限られる

この表の1行目さえ頭に入れば、残りは全部そこから導けます。「体を通るから対極板がいる」「体を通らないから要らない」。ここから先は、その理屈を現場の動きに落としていきます。

そもそも電気メスはなぜ組織を切れるのか

熱を出しているのは、器械ではなく組織のほう

これは新人の頃に一番びっくりしたことです。電気メスのメス先そのものは、熱くなるように作られていません。

電気メスは高周波の電流を流します。電流が組織を通るとき、組織の抵抗によって熱が生まれます。これがジュール熱です。つまり発熱しているのは患者さんの組織のほうで、メス先はその熱をもらって熱くなっているだけなんです。

ではなぜ、メス先の当たったところだけが切れて、体の他の場所は無事なのか。ここで効いてくるのが電流密度という考え方です。

同じ量の電流でも、狭いところを通れば密度が高くなり、広いところを通れば密度は低くなります。メス先は先端が細く、接触面積がとても小さい。だからそこだけ電流密度が跳ね上がって、一瞬で組織が切れる温度まで上がります。

この「面積が小さいほど熱くなる」という一点が、対極板の話にも、熱傷の話にも、そのまま効いてきます。ここだけは覚えて帰ってください。

体に電気を流しているのに、なぜ感電しないのか

家庭のコンセントは50Hz、あるいは60Hzです。この帯域の電流が体を流れると、筋肉が収縮したり、心室細動が起きたりします。感電が危ないのはこのためです。

電気メスが使っているのは、おおむね数百kHz以上の高周波です。周波数がここまで高くなると、神経や筋は電気の振れについていけなくなり、刺激として反応しなくなります。だから体に電流を流しても、患者さんはけいれんも起こさないし、心臓も乱れません。

「刺激はしないけれど、熱は出る」。この性質を利用しているのが電気メスです。逆に言えば、熱だけは確実に出ているということでもあります。この記事の後半で扱う熱傷の話は、すべてここから始まります。

モノポーラ:電流が患者さんの体を一周する

電流の道筋を指でなぞってみる

モノポーラの電流は、こう流れます。

本体 → コード → メス先(アクティブ電極) → 切りたい組織 → 患者さんの体の中対極板 → コード → 本体へ戻る

電気は必ず「出て、戻る」で一周します。行きっぱなしということはありません。この回路の帰り道を担当しているのが対極板です。

ここで、さっきの電流密度を思い出してください。メス先は面積が数mm²しかないので、電流密度が高く、組織が切れるほど熱くなります。一方、対極板は手のひらほどの面積があります。同じ電流が広い面積に散らばるので、密度が低く、熱くなりません。

対極板は英語では dispersive electrode、つまり「電流を散らす電極」と呼ばれます。名前のとおり、散らすことが仕事です。散らせなくなった瞬間、そこは第二のメス先になります。

切開・凝固・混合は「波の形」が違う

同じモノポーラでも、術者が「切開」と言うときと「凝固」と言うときでは、流れている電流の波の形が違います。

モード波の出方組織で起きていること見た目
切開(CUT)途切れず連続して出る細胞内の水分が一気に沸騰して細胞が弾けるスッと裂けるように切れる
凝固(COAG)短く出しては休むを繰り返す温度がじわじわ上がり、タンパクが変性して固まる白っぽく縮んで止まる
混合(BLEND)連続波に休みを混ぜる切りながら同時に固める出血の多い層を切るときに

ざっくり言うと、切開は「休まず出す」、凝固は「出しては休む」です。休みを挟むぶん、凝固のほうが同じ効果を出すのに高い電圧を必要とします。

この「凝固のほうが電圧が高い」という事実は、後で出てくる腹腔鏡での事故の話につながります。電圧が高いほど、絶縁体を突き破ったり、意図しないところへ飛んだりしやすくなるからです。

器械出しが見ているポイント

私が器械出しで実際に気にしているのは、この4つです。

  • 先端の焦げ(コアグラ)が溜まっていないか。付着物があると通電が悪くなり、術者が「切れない」と感じて出力を上げる流れになります。こまめに拭く、スクレーパーで落とす
  • 使っていない間、ホルスターに戻っているか。ドレープの上に直置きしたメス先が誤作動すると、そこが発火点になります
  • コードが術野を横切って引っ張られていないか。引っ張られると本体側のコネクタが抜けかけます
  • 使用直後のメス先を組織に触れさせない。通電が終わってもメス先は高温のままです。直後に置いた場所が熱傷になります

特に1つ目は大事です。「切れないから出力を上げる」は、事故の入り口になりやすいと思っています。先に先端を見て、それでも切れないなら他の原因を疑う。この順番を崩さないようにしています。

バイポーラ:電流は先端の数mmしか通らない

なぜ対極板が要らないのか

バイポーラは、ピンセットの形をしています。これは見た目の問題ではなく、2本の足が電極の「行き」と「帰り」になっているからです。

本体 → ピンセットの片方の先端 → 挟んだ組織(数mm) → もう片方の先端 → 本体へ戻る

電流が通るのは、ピンセットで挟んだところだけ。患者さんの体を通り抜けません。帰り道がピンセットの中にあるので、対極板という帰り道を用意する必要がないんです。

ここが理解できると、「バイポーラなら対極板いらないんでしたっけ?」と迷わなくなります。要る・要らないを暗記するのではなく、電流の帰り道がどこにあるかで考える。そうすれば忘れません。

バイポーラが選ばれる場面

  • 脳神経外科の手術。周囲に熱を広げたくない場所の代表です。すぐ隣に傷つけてはいけない神経や血管があります
  • 細い血管の止血。挟んで固めるので、狙ったところだけを確実に止められます
  • ペースメーカーやICDを入れている患者さん。電流が体を通らないので、デバイスへの影響を避けやすくなります
  • 血流の届きにくい細い部位。周囲に熱が広がると組織が壊死するリスクがある場所です

逆にバイポーラが苦手なのは、広い範囲を一気に切ったり剥がしたりすることです。挟めるものしか処理できないので、皮膚切開はできません。だから多くの手術では、モノポーラとバイポーラを場面で使い分けます。

器械出しが見ているポイント

  • 先端に焦げが固まっていないか。バイポーラは先端どうしの間に電流を流すので、汚れがつくと通電しなくなります。濡れガーゼで優しく拭く
  • 先端が開くか、噛み合っているか。渡す前に一度開閉を確認します
  • 洗浄用の生理食塩水を切らさない。術野を濡らしながら使う場面が多く、乾くと組織がくっつきます
  • コードの根元の断線。繰り返し曲がる部分なので、通電不良の原因になりやすい場所です

「バイポーラが効かない」と言われたとき、いきなり出力を上げるのではなく、まず先端の汚れと噛み合わせを見る。これはモノポーラのときと同じ順番です。

対極板:ここが熱傷の分かれ道になる

ここからが本題です。対極板の扱いは、外回りが担当することが多い仕事でありながら、間違えると患者さんに一生残る傷を作ってしまうところでもあります。

貼る場所の選び方には理由がある

対極板を貼る場所には条件があります。それぞれ「なぜそうなのか」まで押さえると、初めての体位でも自分で判断できるようになります。

条件なぜそうするのか
筋肉量があり血流のよい部位血流は熱を運び去ってくれる。筋肉は電気を通しやすい
平坦で、全面が密着する部位浮いた部分があると、接している部分だけに電流が集中する
手術部位に近い側電流の通り道が短くなり、余計な場所を通らない
体毛を処理してから貼る毛があると密着せず、部分的に浮く

実際には大腿の前面が選ばれることが多いです。筋肉があり、平坦で、多くの手術で術野から遠すぎない。条件がそろいやすい場所だからです。

貼る向きも決まりがあります。腕や脚に貼るときは、体の長軸に対して縦または横に、電極の全面が体に載るように貼ります。斜めに貼って端が浮くのが一番よくありません。

貼ってはいけない場所

  • 骨の出っ張っているところ。皮下組織が薄く、面で密着しません
  • 瘢痕(手術痕)の上。血流が乏しく、熱を逃がせません
  • 金属インプラントの真上。電流が金属に集中する可能性があります
  • ペースメーカーや心臓を電流が通る配置。メス先と対極板を結んだ線を頭の中で引いて、その線上にデバイスや心臓が来ないようにします
  • 消毒液や体液がかかる場所。液体で粘着が落ちて剥がれます
  • 循環の悪い部位、浮腫のある部位。熱が逃げません

4つ目の「線を引いてみる」は、ぜひ習慣にしてください。メス先から対極板まで、患者さんの体の中をどう電流が通るかを一度イメージする。それだけで、危ない配置はかなり避けられます。

やってはいけない3つの扱い

① 小さく切って使わない
体格に合わないからといって対極板をハサミで切ると、切断面から金属箔が露出します。そこで放電が起き、熱傷の原因になります。面積が減ること自体も電流密度を上げます。体格に合うサイズの製品(小児用など)を選びます。

② 一度貼ったディスポ対極板を貼り直さない
剥がすと粘着力が落ちます。貼り直したものは術中に浮きやすく、そこから熱傷につながります。位置を間違えたら、もったいなくても新しいものを使います。

③ 添付文書にない処置を加えない
再使用型にゲルやペーストを塗る、テープで補強するなど、製品の指示にない扱いをしない。対極板は製品ごとに条件が違うので、必ず添付文書に従います。

接触監視機能とアラームの意味

最近の電気メスの多くには、対極板がちゃんと貼れているかを常に監視する機能が付いています。メーカーによって名前が違いますが、2面に分かれた対極板を使い、その2面の間の抵抗を測って接触状態を判定する仕組みです。

術中に対極板のアラームが鳴ったとき、やることは決まっています。

  1. まず術者に伝えて、通電を止めてもらう
  2. コネクタが本体から抜けかけていないか見る
  3. ドレープをめくって対極板の貼付状態を直接確認する
  4. 浮いていたら、新しい対極板に貼り替える

「アラームが鳴っているけれど手術は進んでいるから」と様子を見るのが、一番危ない対応です。この機能は熱傷を防ぐために付いているものなので、鳴ったら止める。それだけです。

なお、始業前の点検で対極板の監視アラームが正しく働くかを確認しておくことも、臨床工学技士会の手術室業務指針で触れられています。日々の点検が、術中の「鳴らない」を防ぎます。

熱傷は、この4つのパターンで起きる

① 対極板そのものの熱傷

最も典型的なパターンです。対極板が部分的に浮くと、接している部分だけに電流が集中します。面積が10分の1になれば、電流密度は10倍です。散らすための電極が、メス先と同じ働きをしてしまいます。

怖いのは、術中は誰も気づけないこと。ドレープの下で起きているので、手術が終わって剥がしたときに初めて発赤や水疱に気づきます。だからこそ、貼るときの数十秒が勝負になります。

② 分流熱傷(電流が別の道を見つけてしまう)

電流は対極板だけを通るとは限りません。もっと通りやすい道があれば、そちらにも流れます。

患者さんの体が手術台の金属部分に触れていたり、支持器具に当たっていたり、心電図の電極が近くにあったりすると、そこを経由して電流が流れることがあります。接触面積が小さいので、そこが熱傷になります。

体位固定のときに「患者さんの体が金属に直接触れていないか」を見るのは、褥瘡や神経損傷の予防だけが理由ではありません。電気メスの分流を防ぐ意味もあります。体位固定と電気メスの安全は、つながっています。

③ 直達熱傷(メス先が直接触れる)

これは単純ですが、実際に起きています。

  • ホルスターに戻さずドレープに置いたメス先が、誤ってフットスイッチと一緒に作動する
  • 使用直後の高温のメス先を、そのまま組織や皮膚の上に置いてしまう
  • 視野の外で、メス先が他の金属器械に触れたまま通電する

2つ目は見落としやすいところです。通電が終わってもメス先は熱いまま。渡されたメスをどこに置くかまで含めて、器械出しの仕事だと思っています。

④ 腹腔鏡でだけ起きる2つの事故

腹腔鏡には、開腹にはないリスクが2つあります。どちらもカメラに映っていない場所で起きるのが共通点です。

起きること仕組み防ぎ方
絶縁被膜の破損鉗子の軸を覆う絶縁材にピンホールができ、そこから電流が漏れて腸管などに触れる使用前に軸を目で確認する。傷や剥がれのあるものは使わない
容量結合絶縁は保たれているのに、近接した金属の筒(トロッカーなど)に電気が移る金属と樹脂を組み合わせたトロッカーを避ける。凝固の高電圧を長く使わない

ここで、前に出てきた「凝固は電圧が高い」が効いてきます。電圧が高いほど絶縁を突き破りやすく、離れた金属にも移りやすい。腹腔鏡で長時間の凝固を続ける場面では、この理屈を知っているかどうかで見える景色が変わります。

器械出しとしてできるのは、渡す前に鉗子の軸を一度見ること。数秒です。それで腸管損傷が一つ減るなら、安いものだと思っています。

引火:酸素とアルコールがそろうと、手術室は燃える

熱傷と並んで知っておいてほしいのが、引火です。「まさか手術室で火事が」と思うかもしれませんが、実際に起きています。

報告されている事例

PMDA(医薬品医療機器総合機構)の医療安全情報に、こんな事例が載っています。

人工呼吸器による管理下で、電気メスを使って気管切開を行っていたところ、切開部から火が出て、患者は気道や咽頭部、顔面などに大火傷を負った。

何が起きたのか。電気メスのメス先が気管チューブに触れて塩化ビニール製のチューブを溶かし、穴が開きます。そこから高濃度の酸素が漏れ出し、電気メスの火花が近づいて引火しました。

酸素は支燃性のガスです。それ自体は燃えませんが、他のものが燃えるのを激しく助けます。一度引火すると、酸素の供給を止めるまで消えにくく、チューブの燃焼にとどまらず咽頭・気管支・肺まで広がる可能性があります。

このためPMDAは、酸素投与下での気管切開には原則として外科用メスを使うこと、やむを得ず電気メスを使う場合も気管開窓時の使用は控えることを示しています。

アルコール消毒液が乾く前に通電しない

もう一つ、日常的に起きうるのがアルコール含有消毒薬への引火です。

消毒液が乾ききらないうちにドレープをかけると、揮発したアルコールの蒸気がドレープの下にたまります。そこへ電気メスの火花が入ると燃えます。特に体の窪み(臍、鼠径部、腋窩)や、ドレープの折り返しの中は蒸気が抜けにくい場所です。

  • 消毒液が完全に乾いてからドレーピングする
  • 液だまりを作らない。垂れた分はガーゼで拭き取る
  • 頭頸部や気道の手術では、酸素濃度と電気メスの使用タイミングを麻酔科と共有する

「乾くのを待つ数十秒」を惜しまない。外回りが守れる一番わかりやすい安全です。

ペースメーカー・ICDの患者さんではどう考えるか

心臓デバイスを入れている患者さんで電気メスを使うとき、心配されるのは高周波電流がデバイスの動作に干渉することです。

考え方の軸は、ここでも同じです。電流がどこを通るか。

  • バイポーラを優先する。電流が体を通らないので、デバイスへの影響を避けやすい
  • モノポーラを使う場合は、電流の通り道を心臓から遠ざける。対極板を術野の近くに貼り、メス先と対極板を結んだ線がデバイスや心臓を通らない配置にする
  • 短く区切って使う。長い連続通電を避ける
  • 術前に循環器と方針を共有しておく。ICDでは頻拍検出機能の一時停止が必要になる場合があります。施設の手順に従います

ここは施設や患者さんの状態で対応が変わるところです。「うちではこうする」を術前に確認しておくのが、外回りの準備の一部だと思っています。

外回りと器械出し、それぞれの動き方

ここまでの内容を、それぞれの役割ごとに時系列で並べ直します。明日から使えるチェックリストとして見てください。

場面外回り器械出し
入室前本体の始業点検。対極板のサイズを患者の体格に合わせて用意使用するデバイスの種類と本数を術式から予測して準備
体位固定後対極板を貼る。全面が密着しているか指でなぞる。体が金属に触れていないか確認
消毒・ドレーピング消毒液が乾いたか確認してからドレープ。液だまりを拭き取るドレープ上にメス先を直置きしない配置を作る
術中出力設定を術者と復唱。アラームが鳴ったら通電を止めてもらってから確認先端の焦げをこまめに除去。使わない間はホルスターへ
腹腔鏡渡す前に鉗子の軸の絶縁を目で見る
退室前対極板を剥がして貼付部の皮膚を観察し、記録するデバイスの破損がないか確認して返却

この表で一番見落とされやすいのが、最後の行の「剥がしたあとに皮膚を見る」です。ここを飛ばすと、熱傷が病棟で発見されることになります。剥がして、見て、記録する。3秒で終わります。

新人がつまずく5つのポイント

指導する側になって気づいた、みんなが同じところで引っかかるポイントです。

① 「切れないから出力を上げる」の順番

術者から「切れない」と言われると、反射的に出力を上げたくなります。でも先に見るのはメス先の焦げ、コネクタの緩み、対極板の貼付状態です。原因を直さずに出力だけ上げると、熱傷と引火のリスクだけが上がります。

② バイポーラに対極板を貼ってしまう/逆に忘れる

暗記で覚えているとこうなります。「電流の帰り道がピンセットの中にあるか、体の外にあるか」で考えれば、迷いません。バイポーラ単独なら不要、モノポーラを併用するなら必要です。

③ 対極板を「とりあえずいつもの場所」に貼る

体位が変われば、条件も変わります。側臥位で下になる側に貼れば、体重で圧迫されて血流が落ちます。その日の体位と術野を見てから決める。これができると、一気に中堅の動きになります。

④ アラームを「様子見」する

手術が佳境だと声をかけづらい気持ちはよくわかります。ただ、対極板のアラームは熱傷を防ぐために鳴っているものです。「対極板のアラームが出ています、一度止めてもらえますか」。この一言を言えるかどうかだけです。

⑤ 使用直後のメス先を組織の上に置く

通電が終わってもメス先は高温です。術者が置いた場所まで見ておくのは器械出しの仕事です。ホルスターに戻す流れを、渡す時点で作っておく。

まとめ:電流の通り道を、指でなぞれるようになる

最後に、この記事の要点を並べます。

  • モノポーラとバイポーラの違いは、電流が体を通るかどうか。ここから対極板の要・不要が決まる
  • 熱を出しているのは組織のほう。面積が小さいところほど熱くなる
  • 対極板は電流を散らす電極。散らせなくなった瞬間、そこが第二のメス先になる
  • 熱傷は対極板・分流・直達・腹腔鏡の4パターン。どれも「電流の通り道」で説明がつく
  • 酸素とアルコールがあるところでは燃える。乾くのを待つ数十秒を惜しまない
  • 剥がしたあとに皮膚を見て記録する。ここを飛ばすと病棟で見つかることになる

電気メスは、毎日使うのに仕組みを習う機会が少ない器械です。私も、対極板の意味をちゃんと理解したのは何年も経ってからでした。

でも一度「電流がどこを通るか」という軸を持つと、バラバラに覚えていたルールが一本につながります。明日、対極板を貼るときに、メス先から対極板まで指でなぞってみてください。それだけで、見えるものが変わります。

もう少し深く学びたい方へ

この記事のもとになった動画では、波形の違いや腹腔鏡での事故の仕組みを、図を使いながら時間をかけて解説しています。YouTubeメンバーシップ「オペ看マスターメンバー」で公開している内容です。

記事だけで十分という方は、ここまでの内容で現場は回ります。「もう一歩、根拠まで押さえておきたい」と思ったときに、思い出してもらえたら嬉しいです。

▶ メンバーシップの内容を見てみる

参考文献

1)日本手術医学会.手術医療の実践ガイドライン(改訂第三版).日本手術医学会誌 40巻suppl号,2019.
2)医薬品医療機器総合機構(PMDA).PMDA医療安全情報 No.14「電気メスの取扱い時の注意について(その1)」.2010年2月.https://www.pmda.go.jp/files/000246775.pdf
3)公益社団法人 日本臨床工学技士会 手術室業務指針検討委員会.手術室業務指針.https://www.ja-ces.or.jp/01jacet/shiryou/pdf/gyoumubetsu_gyoumushishin04.pdf

※機器の取り扱いは製品ごとに条件が異なります。実際の運用は各製品の添付文書と施設の手順に従ってください。

よくある質問

Q. 電気メスとバイポーラ、どちらが止血力が強いですか?

「強い・弱い」ではなく、届く範囲が違うと考えてください。モノポーラは広い面をまとめて焼けるので、じわじわ出ている面の止血に向きます。バイポーラは挟んだところを確実に固めるので、狙った血管を止めるのに向きます。面を止めたいのか、点を止めたいのかで選ばれます。

Q. 対極板は必ず大腿に貼るものですか?

大腿前面が選ばれやすいだけで、決まりではありません。条件は「筋肉量があり、血流がよく、平坦で全面が密着し、術野から遠すぎないこと」です。体位と術野によって最適な場所は変わります。上肢の手術で下肢に貼れば、電流の通り道が体を長く横断することになります。

Q. リガシュアやハーモニックとは何が違うのですか?

血管シーリングシステム(リガシュア等)は、バイポーラの考え方を発展させたもので、圧着と通電を組み合わせて血管を閉じます。超音波凝固切開装置(ハーモニック等)は電流ではなく超音波の振動による摩擦熱で切って固めるため、そもそも高周波電流を使いません。詳しくはリガシュアとハーモニックの違いで解説しています。

Q. 対極板のアラームが鳴らなければ、貼り方は間違っていないということですか?

いいえ。接触監視機能が見ているのは主に対極板の貼付状態であって、分流や直達による熱傷は検知できません。体が金属に触れていないか、メス先の置き場所は適切かは、別に確認する必要があります。アラームは安全の一部であって、全部ではありません。

Q. 1年目です。まず何から覚えればいいですか?

この記事でひとつだけ持ち帰るなら、「電流はメス先から入って対極板から出る」です。その一本の線を頭の中で引けるようになれば、対極板を貼る場所も、体が金属に触れてはいけない理由も、ペースメーカーの患者さんで配置を気にする理由も、全部そこから説明できます。器械の名前を覚えるのは、そのあとで大丈夫です。

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