新人オペ看が育つ手術室とは?手術室の指導者が見るべきは、結果ではなくその途中にある「迷い」

オペ看の働き方
この記事は約11分で読めます。

手術室で新人を指導していると、こんな場面に出会うことがあります。

「次、何を出せばいいですか?」

そう聞かれて、私は以前ならすぐに答えていました。

「○○だよ」

あるいは、新人が器械台を見ながら迷っていると、

「それじゃない、こっち」

と、先に器械を渡してしまう。

そのほうが手術は止まりません。

新人も困らないし、術者を待たせることもありません。

何より、指導する側からすると「自分がやったほうが早い」。

手術室では、そんな場面が本当にたくさんあります。

私自身、10年以上手術室で働いてきて、新人教育にも関わってきました。

3年目で初めてプリセプターを経験した頃は、「新人に分かりやすく教えること」が教育だと思っていました。

一生懸命説明する。

次にやることを伝える。

間違えないように先回りする。

それでも新人が思うように動けないと、「ちゃんと説明したのに、どうしてできなかったんだろう」と悩むこともありました。

でも、今振り返ると、私が見ていたのは「自分が何を教えたか」であって、「新人が何に迷っていたのか」ではなかったのかもしれません。

そんな自分の経験と重なったのが、2025年に発表された、手術室の器械出し看護師の行動を分析した研究でした。

この研究は、私が新人教育を考えるうえで、かなり興味深い視点を与えてくれました。

「新人は動きが遅い」と思ったとき、何を見ているだろう

研究では、心臓血管外科手術における器械出し看護師の行動を、1秒ごとの単位で分析しています。

対象となったのは、新人看護師5名とエキスパート看護師5名。

ここでいう「新人」は看護師1年目ではありません。

手術室経験3年目で、心臓血管外科の研修が1年目の看護師です。

一方、エキスパートは手術室経験7~15年、中央値10年でした。注1

つまり、「看護師として新人かどうか」ではなく、「その領域についてどの程度経験しているか」という視点で比較されています。

これは、手術室ではとても身近な話です。

病棟から異動してきた看護師。

手術室経験はあるけれど、心臓血管外科には初めて入る看護師。

数年目になって新しい診療科を担当する看護師。

「看護師としては新人ではないけれど、この領域では新人」という状況は、決して珍しくありません。

では、実際に新人とエキスパートで何が違ったのでしょうか。

研究では、分析した時間のうち実際に行動していた割合を「行動率」としています。

新人は56.2%、エキスパートは61.7%。

エキスパートのほうが高いものの、統計的に有意な差はありませんでした。注1

私はここを読んで、少し意外に感じました。

新人は「動いていない」わけではなかったのです。

では、同じように動いているのに、なぜ新人の動きは「遅い」と感じるのでしょうか。

ある新人の器械出しを見ていて、私ならどこを見るか

例えば、手術中に新人が次の器械を出そうとしている場面を想像してみます。

術野を見て、器械台を見る。

一度、器械に手を伸ばす。

でも、手を止める。

別の器械を探す。

もう一度台を見る。

そして外回り看護師に、

「次は○○でいいですか?」

と聞く。

その一連の動きを見た指導者が、

「まだ先読みができていないな」

「もっと器械を覚えないと」

「動きが遅いな」

と評価することは、決して珍しくないと思います。

私自身も、以前はそういう見方をしていたと思います。

ところが研究では、こうした「器械を探す」「器械台を見る」「器械に触れる」といった行動が、新人に長く見られていました。

器械を触る行動は、新人45秒に対してエキスパート24秒。

器械を探す行動は、新人19秒に対してエキスパート2秒。

器械台を見る行動は、新人9秒に対してエキスパート2秒でした。注1

ここから私は、

新人の「遅さ」は、手を動かすスピードだけでは説明できないのではないか

と感じました。

新人は動いている。

ただ、その動きの中に「判断するための時間」が多く含まれている。

そう考えると、今まで「遅い」と一言で片づけていた場面が、少し違って見えてきます。

「迷っている時間」は、実は目に見えている

私たちは「迷う」というと、頭の中だけで起きていることだと思いがちです。

でも今回の研究では、その迷いが行動として表れています。

触る。

探す。

台を見る。

確認する。

新人が迷っていることは、実は外から観察できる。

私はここが、この研究の一番面白いところだと思いました。

そして、指導者としては、この「見える迷い」を教育に利用できるのではないかと感じています。

例えば、新人が器械を探している時間が長い。

それなら、「もっと早く取って」と言う前に、

「この器械、どこを探していた?」

「普段どこに置いてあると取りやすい?」

と一緒に考えてみる。

器械台を何度も見るなら、

「何を確認するために台を見ている?」

「この場面の次に何が来ると思う?」

と聞いてみる。

つまり、結果である「遅さ」を直すのではなく、その手前にある「迷い」を見つける。

私は、これを今後の新人指導で意識したいと思っています。

「次は何ですか?」に、すぐ答えなくてもいい

私自身、新人教育で大きく考え方が変わったのは、「先回りして教えること」についてです。

10年も手術室にいると、次に何が起こるのか予測できる場面が増えてきます。

「そろそろこの器械だな」

「この先生なら次はこれを使うな」

「この操作のあとには、いつもこの展開になるな」

経験が増えるほど、答えが先に見えるようになります。

だから、新人が迷っていると、

「はい、これ」

と答えを渡してしまう。

でも、それを繰り返すと、新人が自分で考える時間を奪ってしまうことがあります。

以前の私は、「新人が困らないようにすること」が優しさだと思っていました。

今は少し違います。

安全に関わることは、もちろん迷わず介入します。

でも、安全が担保されている場面なら、

「どう思う?」

と一度返してみる。

「今、術野では何をしている?」

「次は何が必要だと思う?」

「そう考えた理由は?」

と、本人が持っている情報を引き出してみる。

これは、私が『教えないスキル』という本を読んだことや、10年間の教育経験を振り返る中で、少しずつ考えるようになったことです。

「聞く」ことも、新人教育の一部だと思うようになった

もう一つ、私自身が10年間働いてきて強く感じていることがあります。

それは、教育というと「教える側が話す」ことに意識が向きやすいけれど、実は「聞くこと」も同じくらい大切だということです。

新人から相談を受けると、

「こうしたほうがいいよ」

「それならこうすればいい」

と、つい自分の経験を伝えたくなります。

でも、少し待って話を聞いてみると、

「本当はこうしたいと思っていました」

「ここが怖かったんです」

「どうしたらいいか分からなくて……」

と、本人なりの考えが出てくることがあります。

振り返ってみると、私自身も新人教育を始めた頃は「何を教えるか」に一生懸命でした。

今なら、もっと「何に困っているのか」「どう考えているのか」を聞いてあげればよかったと思います。

だから最近は、指導のあとに、

「今日どうだった?」

「どこが一番難しかった?」

「自分ではどう思った?」

と聞くようにしています。

正解を教えて終わるのではなく、その人の中にある考えを一緒に整理する。

それも教育なのだと思うようになりました。

外回り看護師に聞く時間も、「できていない」だけではない

研究では、外回り看護師に聞く行動も、新人17秒、エキスパート6秒と新人のほうが長い傾向がありました。統計的な有意差は示されていませんが、研究結果として新人側に長くみられた行動の一つです。注1

これを見て、私はもう一つ考えました。

新人が外回りに質問する。

それを、

「自分で考えずに聞いている」

と捉えることもできます。

でも逆に、

「分からないまま進めず、確認している」

とも捉えられます。

実際の手術では、分からないことを勝手に判断して進めるより、安全のために確認することが必要な場面もあります。

だから、質問すること自体を減らすのではなく、

「質問する前に、どこまで自分で考えられているか」

を見ていくほうが、私は大切なのではないかと思います。

例えば、

「次は○○ですか?」

と聞かれたら、

「あなたは何だと思う?」

と一度返す。

その答えを聞いたうえで、

「じゃあ、どうしてそう考えた?」

と確認する。

もし考え方が違っていれば、その理由を一緒に修正する。

こうすれば、「質問するな」ではなく、「考えてから確認する」という習慣につなげられるかもしれません。

私は実際の指導でも、こういう関わり方を少しずつ増やしていきたいと思っています。

指導者が「教える人」から「観察する人」になる

今回の研究を読んで、私は新人教育における指導者の役割についても考え直しました。

指導者というと、

「正しいことを教える人」

というイメージがあります。

もちろん、それも大切です。

無菌操作、安全管理、器械の扱い、術式、解剖など、教えなければならないことはたくさんあります。

ただ、指導者がすべての答えを持って、それを新人に渡すだけでは、新人が自分で判断する力は育ちにくいのではないかと思います。

むしろ、

「この人は今どこで迷っている?」

「何を見て判断している?」

「何が分かれば、もう一歩先に進める?」

と観察する。

そして、必要なところだけ支援する。

私は今、そんな指導者でありたいと思っています。

「できることを増やす」だけが教育ではない

新人教育では、

「○月までにこの術式ができるようにする」

「この器械を覚える」

「一人で器械出しができるようになる」

といった目標が設定されることも多いと思います。

もちろん、それは必要です。

でも、私は10年間手術室で働いてきて、

「できることが増えた=教育が成功した」だけではない

と思うようになりました。

自分で考えられる。

分からないことを質問できる。

失敗したときに振り返ることができる。

困ったときに周囲に相談できる。

そして、少しずつ自分なりの看護を考えられる。

こうした力も、手術室で長く働くうえでは大切です。

新人は、いつか新人ではなくなります。

今教えている人が、数年後には後輩を教える側になる。

だから私は、

「先輩に言われた通りに動ける人」

ではなく、

「自分で状況を考えて、必要なときには周囲と協力できる人」

を育てたいと思っています。

私がこれから新人教育で大切にしたいこと

今回の研究を読んで、改めて感じたことがあります。

新人の「遅さ」には、理由があります。

そして、その理由は、本人の努力不足だけとは限りません。

器械を探している。

台を見ている。

何度も確認している。

誰かに聞いている。

そこには、その人が今まさに学んでいる途中の姿があります。

だから、これから私は、新人が遅く見えたときほど、

「なぜ遅いんだろう?」

ではなく、

「どこで迷っているんだろう?」

と考えてみたいと思います。

そして、迷っている場所が見えたら、

「もっと早く」

「もっと先を読んで」

と抽象的に伝えるのではなく、

「ここで迷っていたよね」

「じゃあ、次は何を見たら判断できそう?」

と、一緒に具体的に考えていきたい。

安全に関わるところは、指導者として責任を持って介入する。

でも、それ以外の部分では、少し待つ。

本人に考えてもらう。

必要なら一緒に振り返る。

そして、本人が持っている考えを聞く。

それが、今の私が10年間の手術室経験を通して考える新人教育です。

教育には、きっと一つの正解はありません。

新人の経験も、性格も、得意なことも、つまずく場所も一人ひとり違います。

だからこそ、指導者側が「こう教えればいい」という一つの型に当てはめるのではなく、

その人が今どこにいるのかを見て、必要な支援を考える。

研究で示された「器械を探す」「台を見る」「確認する」という行動も、単なる「新人らしい行動」として終わらせるのではなく、その人が成長するための手がかりとして見てみる。

私はこれから、そんな視点を大切にしていきたいと思っています。

「新人は遅い」。

そう感じたときこそ、少しだけ立ち止まって、その数秒を見てみる。

そこには、その人が「できていない姿」ではなく、

「できるようになろうとしている途中の姿」

があるのかもしれません。

注釈

注1) 野瀨珠美,飛田伊都子,戸田満秋「手術室における器械出し看護師の行動特性―新人看護師とエキスパート看護師の比較を通して」『日本看護医療学会雑誌』27巻2号,54-62,2025年.DOI:10.11477/mf.134526060270020054.
本研究では、新人看護師5名とエキスパート看護師5名を対象に、器械出し看護場面を録画し、1秒ごとの行動単位で分析しています。行動は30カテゴリーに分類され、新人看護師では「器械台を見る」「器械を触る・探す」「外回り看護師に聞く」などの行動が長く、エキスパート看護師では「器械を拭く」行動が長くみられました。研究では、これらの行動が経験によって変化し、段階的な教育支援や教育プログラム構築に活用できる可能性が考察されています。なお、対象者10名、特定の手術場面を対象とした研究であるため、本稿では研究結果をすべての手術室看護師に一般化せず、新人教育を考える際の一つの視点として扱っています。

参考文献
野瀨珠美,飛田伊都子,戸田満秋.手術室における器械出し看護師の行動特性―新人看護師とエキスパート看護師の比較を通して.日本看護医療学会雑誌.2025;27(2):54-62.

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