新人オペ看が育つ手術室とは?手術室の指導者が見るべきは、結果ではなくその途中にある「迷い」

オペ看の働き方
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「次、何を出せばいいですか?」

手術室で新人さんを指導していると、こう聞かれる場面にたくさん出会います。

以前の私は、すぐに「○○だよ」と答えていました。新人さんが器械台を見ながら迷っていると、「それじゃなくて、こっち」と先に器械を渡してしまうこともありました。

そのほうが手術は止まりませんし、新人さんも困らないし、術者を待たせることもありません。何より、教える側からすると「自分でやったほうが早い」んですよね。

手術室には、そんな場面が本当にたくさんあります。

こんにちは、オペ看めろんです。私は手術室で10年働き、新人教育にも関わってきました。

3年目で初めてプリセプターになった頃は、「新人さんに分かりやすく教えること」が教育だと思っていました。一生懸命に説明して、次にやることを伝えて、間違えないように先回りして。

それでも新人さんが思うように動けないと、「ちゃんと説明したのに、どうしてできなかったんだろう」と悩んでいました。

でも今振り返ると、あの頃の私が見ていたのは「自分が何を教えたか」で、「新人さんが何に迷っていたのか」ではなかったのかもしれません。

そんな自分の経験と重なったのが、2025年に発表された、手術室の器械出し看護師の行動を分析した研究でした。新人教育を考えるうえで、とても興味深い視点をくれた研究なので、今日はこの研究を読んで感じたことを、コラムとして書いてみます。

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この記事を書いている人

オペ看めろん

オペ看めろん🍈

年間6,000件以上の手術室で10年間積み上げてきた経験を基に、記事・サイトを更新中

「新人さんは動きが遅い」と感じたとき、私たちは何を見ているのか

この研究では、心臓血管外科手術での器械出し看護師の行動を、1秒ごとに分けて分析しています。

対象は、新人看護師5名とエキスパート看護師5名です。ここでいう「新人」は、看護師1年目のことではありません。

手術室経験3年目で、心臓血管外科の研修が1年目の看護師です。エキスパートは、手術室経験7~15年(中央値10年)の看護師でした。

注1

つまり、「看護師として新人かどうか」ではなく、「その分野をどのくらい経験しているか」で比べているんです。

これは手術室では、とても身近な話だと思います。病棟から異動してきた看護師さん。

手術室の経験はあるけれど、心臓血管外科には初めて入る看護師さん。何年目かで新しい診療科を担当することになった看護師さん。

「看護師としては新人ではないけれど、この分野では新人」という状況は、珍しいことではありませんよね。

では、新人とエキスパートで、実際に何が違ったのでしょうか。

研究では、分析した時間のうち実際に手や体が動いていた割合を「行動率」としています。新人は56.2%、エキスパートは61.7%。

エキスパートのほうが高いものの、統計的にはっきりした差はありませんでした。注1

ここを読んだとき、私は少し意外に感じました。新人さんは「動いていない」わけではなかったんです。

同じように動いているのに、どうして新人さんの動きは「遅い」と感じるのでしょうか。

オペ看めろんが本棚の前で勉強しているイラスト

新人さんの器械出しを、もう一度思い浮かべてみる

たとえば、手術中に新人さんが次の器械を出そうとしている場面を思い浮かべてみてください。

術野を見て、器械台を見る。一度器械に手を伸ばして、止める。

別の器械を探して、もう一度台を見る。そして外回りの看護師に「次は○○でいいですか?」と聞く。

その様子を見て、「まだ先読みができていないな」「もっと器械を覚えないと」「動きが遅いな」と感じる指導者は、きっと少なくないと思います。

私も以前は、まさにそう見ていました。

ところが研究では、こうした「器械を探す」「器械台を見る」「器械に触れる」といった行動が、新人さんに長く見られていたんです。

  • 器械を触る:新人45秒、エキスパート24秒
  • 器械を探す:新人19秒、エキスパート2秒
  • 器械台を見る:新人9秒、エキスパート2秒(注1)

この数字を見て、私は新人さんの「遅さ」は、手を動かすスピードだけでは説明できないのかもしれないと思いました。

新人さんは、ちゃんと動いている。ただ、その動きの中に「判断するための時間」がたくさん入っている。

そう考えると、今まで「遅い」のひと言で片づけてきた場面が、少しちがって見えてきました。

「迷っている時間」は、外から見えている

「迷う」というと、頭の中だけで起きていることだと思いがちですよね。

でもこの研究では、その迷いが「触る」「探す」「台を見る」「確認する」という行動になって表れていました。新人さんが迷っていることは、実は外から見ることができるんです。

私は、ここがこの研究でいちばん面白いところだと思いました。

そして、この「見える迷い」は、教えるときのヒントにできると感じました。

たとえば、器械を探している時間が長い新人さんには、「もっと早く取って」と言う前に、「この器械、どこを探していた?」「いつもどこに置いてあると取りやすい?」と一緒に考えてみる。

器械台を何度も見ているなら、「何を確かめようとして台を見ている?」「この場面の次に、何が来ると思う?」と聞いてみる。

結果としての「遅さ」を直そうとするのではなく、その手前にある「迷い」を一緒に見つける。もし今、もう一度新人さんを担当するなら、私はここを大切にしたいと思っています。

開いたノートと複数のファイル。器械の手書きメモ

「次は何ですか?」に、すぐ答えなくてもいい

私が新人教育でいちばん考え方が変わったのは、「先回りして教えること」についてでした。

手術室に長くいると、次に何が起きるのか予測できる場面が増えていきます。「そろそろこの器械だな」「この先生なら次はこれを使うな」「この操作のあとは、いつもこういう流れになるな」。

経験を積むほど、答えが先に見えるようになるんです。

だから新人さんが迷っていると、つい「はい、これ」と答えを渡してしまう。でも、それを繰り返していると、新人さんが自分で考える時間を奪ってしまうことがあります。

以前の私は、新人さんが困らないようにすることが優しさだと思っていました。でも、今は少し考えが変わりました。

安全に関わることは、もちろん迷わず手を出します。でも、安全が守られている場面なら、「どう思う?」と一度返してみる。

「今、術野では何をしている?」「次は何が必要だと思う?」「そう思った理由は?」と、本人が持っている情報を引き出してみるんです。

これは、『教えないスキル』という本を読んだことや、10年間の教育の経験を振り返る中で、少しずつ考えるようになったことです。

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「聞くこと」も、新人教育の大事な一部でした

もうひとつ、10年働いてきて強く感じていることがあります。

教育というと「教える側が話すこと」に意識が向きがちですが、実は「聞くこと」も同じくらい大切だということです。

新人さんから相談を受けると、つい「こうしたほうがいいよ」「それならこうすればいい」と、自分の経験を伝えたくなりますよね。

でも、少し待って話を聞いてみると、「本当はこうしたいと思っていました」「ここが怖かったんです」「どうしたらいいか分からなくて……」と、その人なりの考えが出てくることがあるんです。

振り返ると、教えはじめた頃の私は「何を教えるか」に一生懸命で、「何に困っているのか」を聞けていませんでした。

だから指導の終わりには、「今日どうだった?」「どこがいちばん難しかった?」「自分ではどう思った?」と聞くようになりました。

正解を教えて終わりにするのではなく、その人の中にある考えを一緒に整理する。それも教育なんだと、思うようになりました。

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実は、「聞けなかった」のは私のほうでした

ここまで「聞くこと」の話をしてきましたが、正直に打ち明けさせてください。私自身が、聞けない新人でした。

1年目の頃、次の日に初めて入る診療科の外回りを担当することになっていました。ほかの診療科の経験はあったので「大丈夫だろう」と思って、その診療科のリーダーに何も確認せずに帰ろうとしたんです。

そのとき、こう言われました。

「初めて入る診療科手術なのに、なんで何も質問してこないの? 明日はわからないことは何もなくて、完璧に動けるんだね!」

泣きそうになりました。と同時に、「浅はかでごめんなさい」とも思いました。

言い方は怖かったけれど、先輩の言っていることは正しいと、そのときの私にも分かったからです。

でも、どうして聞かなかったのか。その理由が分かったのは、ずっとあとのことでした。

私には、「周りに確認しないで、自己判断で動いてしまう癖」がありました。どうしてそうなるのかを掘り下げてみて、ようやく見えてきたのは、「分からないことを、分からないと言うこと」そのものが怖かったということです。

「今さらそんなことも分からないの?」と言われるんじゃないか。「それは自分で調べることだよね」と怒られるんじゃないか。

そう思うと、質問すること自体が苦手になっていました。それで、分からないまま動いてしまうんです。

でもその先に待っていたのは、インシデントや良くない結果ばかりでした。それでは患者さんの安全も守れません。だから今は、たとえ一時的に怒られたとしても、分からないことは先に聞いて解決してから動いたほうがいいと思っています。

そして教える側になってから、もうひとつ思うようになりました。新人さんが質問してこないとき、それは「やる気がない」のではなく、「聞けない理由」があるのかもしれないということです。

少なくとも、私はそうでした。

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外回りに聞く時間も、「できていない」だけではない

研究では、外回りの看護師に聞く行動も、新人17秒、エキスパート6秒と、新人さんのほうが長い傾向がありました。統計的にはっきりした差は示されていませんが、新人さんに長く見られた行動のひとつです。

注1

これを見て、私はもうひとつ考えました。新人さんが外回りに質問するのは、「自分で考えずに聞いている」と受け取ることもできます。

でも反対に、「分からないまま進めずに、ちゃんと確認している」と受け取ることもできるんですよね。

実際の手術では、分からないことを自分の判断で進めるより、安全のために確認したほうがいい場面もあります。

だから、質問を減らそうとするのではなく、「質問する前に、どこまで自分で考えられているか」を見ていくほうが大切なのではないかと、私は思います。

たとえば「次は○○ですか?」と聞かれたら、「あなたは何だと思う?」と一度返してみる。その答えを聞いてから、「どうしてそう考えたの?」と確かめる。

考え方がちがっていたら、その理由を一緒に直していく。

そうすれば、「質問するな」ではなく、「考えてから確認する」という習慣につなげていけると思うんです。

指導者は「教える人」から「よく見る人」へ

この研究を読んで、指導者の役割についても考え直しました。

指導者というと、「正しいことを教える人」というイメージがありますよね。もちろん、それも大切です。

無菌操作、安全管理、器械の扱い、術式、解剖。教えなければいけないことは、たくさんあります。

ただ、指導者が答えを全部持っていて、それを新人さんに渡すだけでは、新人さんが自分で判断する力は育ちにくいのではないかと思います。

それよりも、「この人は今、どこで迷っている?」「何を見て判断している?」「何が分かれば、もう一歩進める?」とよく見て、必要なところだけ手を貸す。

私は、そんな指導者でありたいと思ってきました。

「できることを増やす」だけが教育ではない

新人教育では、「○月までにこの術式ができるようにする」「この器械を覚える」「ひとりで器械出しができるようになる」といった目標がよく立てられます。

もちろん、それは必要なことです。

でも10年手術室で働いてきて、「できることが増えた=教育がうまくいった」だけではないと思うようになりました。

自分で考えられる。分からないことを質問できる。

失敗したときに振り返れる。困ったときに周りに相談できる。

そして少しずつ、自分なりの看護を考えられるようになる。こうした力も、手術室で長く働いていくうえではとても大切です。

新人さんは、いつか新人ではなくなります。今教えている人が、数年後には後輩を教える側になるんですよね。

だから私は、「先輩に言われたとおりに動ける人」よりも、「自分で状況を考えて、必要なときには周りと協力できる人」を育てたいと思っていました。

おわりに|新人さんが遅く見えたときこそ、少しだけ立ち止まって

この研究を読んで、あらためて感じたことがあります。新人さんの「遅さ」には、ちゃんと理由があるということです。

そしてその理由は、本人の努力不足だけとは限りません。

器械を探している。台を見ている。

何度も確認している。誰かに聞いている。

そこには、その人が今まさに学んでいる途中の姿があります。

だから新人さんが遅く見えたときほど、「なぜ遅いんだろう?」ではなく、「どこで迷っているんだろう?」と考えてみてほしいんです。

迷っている場所が見えたら、「もっと早く」「もっと先を読んで」とざっくり伝えるのではなく、「ここで迷っていたよね」「じゃあ次は、何を見たら判断できそう?」と、一緒に具体的に考えてみる。

安全に関わるところは、指導者として責任をもって手を出す。でもそれ以外のところでは、少し待って、本人に考えてもらう。

必要なら一緒に振り返って、本人の考えを聞く。それが、10年の手術室経験を通して私がたどり着いた新人教育です。

教育に、たったひとつの正解はないと思います。新人さんの経験も、性格も、得意なことも、つまずくところも、一人ひとりちがいます。

だからこそ、「こう教えればいい」というひとつの型に当てはめるのではなく、その人が今どこにいるのかを見て、必要な手助けを考える。研究に出てきた「器械を探す」「台を見る」「確認する」という行動も、「新人らしい動き」で終わらせずに、その人が伸びていくための手がかりとして見てみてください。

新人さんの指導に悩んでいる先輩のあなたも、うまく動けずに落ち込んでいる新人のあなたも、どうか自分を責めすぎないでくださいね。

「新人さんは遅い」と感じたその数秒には、「できるようになろうとしている途中の姿」があるのかもしれません。その途中を一緒に見守れる手術室が、ひとつでも増えたらいいなと私は思っています。

注釈

注1) 野瀨珠美,飛田伊都子,戸田満秋「手術室における器械出し看護師の行動特性―新人看護師とエキスパート看護師の比較を通して」『日本看護医療学会雑誌』27巻2号,54-62,2025年.DOI:10.11477/mf.134526060270020054.
本研究では、新人看護師5名とエキスパート看護師5名を対象に、器械出し看護場面を録画し、1秒ごとの行動単位で分析しています。

行動は30カテゴリーに分類され、新人看護師では「器械台を見る」「器械を触る・探す」「外回り看護師に聞く」などの行動が長く、エキスパート看護師では「器械を拭く」行動が長くみられました。

研究では、これらの行動が経験によって変化し、段階的な教育支援や教育プログラム構築に活用できる可能性が考察されています。

なお、対象者10名、特定の手術場面を対象とした研究であるため、本稿では研究結果をすべての手術室看護師に一般化せず、新人教育を考える際の一つの視点として扱っています。

参考文献
野瀨珠美,飛田伊都子,戸田満秋.手術室における器械出し看護師の行動特性―新人看護師とエキスパート看護師の比較を通して.日本看護医療学会雑誌.2025;27(2):54-62.

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