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「お腹からの手術と思ったら、術中に腟からの操作もあって混乱してしまう。」
産婦人科の手術は、同じ「子宮の手術」でも方法がいくつかあります。
お腹を開ける、腹腔鏡やロボットで入る、腟から操作する、子宮鏡で見る。手術操作が変わると、体位も清潔の考え方も器械台も変わります。
このページは、産婦人科の手術の記事を部位と手術操作ごとにまとめた記事です。
目次を見て、明日入る手術だけ拾い読みしても大丈夫です。気になるところから見てみてください。
術式の前に|産婦人科の手術に共通すること
産婦人科手術を理解するうえで大切なのは、「どこからアプローチするのか」と「どのような体位で手術を行うのか」という2つの視点です。
まず、手術のアプローチ方法です。腟には常在菌が存在するため、腟を経由する操作では感染対策が重要になります。そのため、腟内で使用した器械と腹腔内で使用する器械を適切に区別することが基本です。これは開腹手術だけでなく、腹腔鏡下やロボット支援下の子宮全摘術でも意識したいポイントです。
次に、手術体位です。腟から操作を行う手術では、両脚を支脚器に乗せる「砕石位」が多く用いられます。
砕石位では、膝の外側への圧迫による腓骨神経障害や、長時間の下肢挙上による血流障害などに注意が必要です。
手術中の体位管理が、術後の患者さんの歩行や日常生活に影響することもあります。
だからこそ、産婦人科手術では術式の流れだけでなく、感染対策と安全な体位管理を理解することが、手術室看護師にとって重要なポイントになります。
帝王切開|二人の命を同時に見る手術
帝王切開は、手順は短く、準備の先読みが長い手術です。赤ちゃんが出てから閉創までの間に、出血と新生児対応が一気に重なります。
帝王切開の器械出し・外回り看護
外回りが入室直後に見るのは、仰向けにした直後の血圧です。大きな子宮が下大静脈を押しつぶし、心臓へ戻る血液が減るからです(仰臥位低血圧症候群)。
下がったら、子宮を左へよせるのが最初の一手です。手術台を左に傾けるか、右の腰にクッションを入れます。
もうひとつ大事なのがバースプランです。自然分娩の予定から急に帝王切開になった方は、気持ちが追いついていないことがあります。
1年目のとき、出勤した直後に緊急の帝王切開が申し込まれました。申し込みと同時に、ベッドに乗った患者さんが手術室ホールに到着しました。
部屋の準備はできていません。ベッドを整え、全身麻酔と器械を準備し、モニターを付け、麻酔導入と同時に手術が始まりました。
いわゆるグレードAです。
怖かったというより、言葉を失いました。定期の帝王切開で流れを体に入れておいたことが、あの日の私を動かしてくれたと思います。
前置胎盤の帝王切開
前置胎盤の帝王切開は、手順そのものはふつうの帝王切開とほぼ同じです。違うのは出血の大きさです。
胎盤がついている子宮の下のほうは筋肉が薄く、胎盤をはがしたあとに縮んで止血する力が弱いのです。
前回の帝王切開の傷に胎盤がかかっていると、胎盤が子宮の壁に食い込む癒着胎盤を合併しやすくなります。その場合、子宮全摘に移ることもあります。
器械出しは、帝王切開のセットに「子宮を取る器械がどこにあり、何分で開けられるか」を上乗せして準備します。吸引は複数系統、ガーゼは多めに用意します。
子宮を摘出する手術|入り口で準備が変わる
子宮全摘は、どこから入るかで別の手術といっていいほど準備が変わります。腟から、ロボットで、そしてお腹を大きく開けて広く取る手術です。
腟式子宮全摘術
腟式子宮全摘は、お腹に傷をつけずに子宮を取る手術です。腟から子宮を引き下ろし、靱帯を順に切り離して摘出します。
お腹の傷がないぶん、外回りの集中は体位に向きます。砕石位で支脚器が膝の外側に当たると、足首が上がらなくなる腓骨神経麻痺が起こります。
膝の外側は、見た目では当たっているか分かりません。固定したら手を差し込んで確かめる。
それがこの手術の外回りの基本です。
ダビンチ子宮全摘術
ロボットの子宮全摘は、砕石位に強い頭低位が加わる体位で行います。腸を頭側へよけて、骨盤の奥を見やすくするためです。
顔はむくみ、体は頭のほうへずり落ちようとします。しかもアームを接続したあとは、原則として手術台を動かせません。
つまり体位の不備に気づいても、簡単には直せないということです。ドッキングの前に「これで数時間もつか」を自分に問いかけてから進みます。
子宮を動かす器具は腟から入れ、摘出した子宮も腟から出します。器械台に「腟に入れたもの置き場」を、手術の前に決めておいてください。
広汎子宮全摘出術
広汎子宮全摘は、子宮だけでなく周りの靱帯、腟の一部、骨盤のリンパ節までまとめて取る手術です。取る範囲の広さが、そのまま術後の後遺症につながります。
基靱帯のそばには、膀胱を動かす自律神経が走っています。術者がここで極端に慎重になるのは、患者さんが退院後に自分で排尿できるかを守っているからです。
もうひとつ全員で守るのが尿管です。尿管は、切れても縛られても目立って出血しないので、その場では気づきにくいのです。
外回りは尿量と尿の色を追いかけます。骨盤の手術中に急に尿が減った、血尿になった。
「たまたま」で片づけずに時刻と一緒に共有することが、この手術では立派な観察になります。
子宮頸部の手術|検体と赤ちゃんを守る
子宮の入り口(頸部)の手術は短時間で終わるものが多い一方、終わったあとに渡すものがとても大事な手術です。
円錐切除術とレーザー蒸散術
2つの違いは、病理に出す組織が残るかどうかです。円錐切除は頸部を円錐形に切り取り、病変がどこまであったかを顕微鏡で調べます。
レーザー蒸散は病変を焼いて消すので、組織は残りません。円錐切除は治療であると同時に、診断のための手術でもあるのです。
だから検体の扱いが診断を左右します。12時方向の目印を失わない、つぶさない、乾かさない。
提出前に「12時はこちらで合っていますか」と術者に一言確かめます。
レーザーや電気メスの煙には、ウイルスの遺伝子が含まれる可能性も指摘されています。煙は出たその場所で吸うのが、自分を守る基本です。
シロッカー法(子宮頸管縫縮術)
シロッカー法は、早産を防ぐために妊娠中に子宮の出口を糸で縛る手術です。この記事で並べた手術の中で、いちばん「二人」を意識する手術かもしれません。
器械台は「長いほう」と「鋭くないほう」で選びます。術野が深いので長い器械が主役になり、先の尖った器械は卵膜を傷つけて破水させるおそれがあるからです。
そしてこの手術は、縛って終わりではありません。糸はいつか必ず抜きます。
縫縮に使った糸の種類と本数、腟内ガーゼの枚数と抜く予定。「この人の体には糸が入っている」という事実を、次の担当へ確実に渡してください。
子宮鏡とロボット|機械に強くなる2本
この2つは、機械の扱いを知っているかどうかで安全が変わる手術です。術者の手元より、外回りの手元が問われる場面が多くあります。
レゼクトスコープ(子宮鏡下手術)
子宮鏡の手術でいちばん怖いのは、出血より灌流液(かんりゅうえき)が体に入ることです。子宮を液で膨らませて見るため、切った血管から液が吸収されていきます。
使う液によっては血液のナトリウムが薄まり、どの液でも量が多ければ体に水があふれます。症状が出てからでは遅い合併症です。
だから外回りは、入れた量と戻ってきた量の差(欠損量)を手術の間ずっと計算し、決まった間隔で声に出して伝えます。これは外回りにしかできない仕事です。
ロボット支援手術(ダビンチ)
ロボット手術で、手順より先に覚えることがひとつだけあります。緊急離脱です。
大出血や心停止が起きたとき、アームが付いたままでは胸骨圧迫すらできません。鉗子を抜く、アームを外す、本体を離す。
その場の誰でもできる状態にしておきます。
妊娠中、リーダーが私に多く割り振ってくれたのが、このロボット手術の器械出しでした。座ったまま長く器械出しができるからです。
座っていられる代わりに、術野はモニターの中にあって手元からは見えません。ドレーピングは2人で、手順の写真を撮らせてもらうと覚えるのが早くなります。
産婦人科で使う器械|腟式の器械を読む
腟式手術の器械は、名前より先に扱いの原則を押さえると覚えやすくなります。
腟式手術の器械一覧
塚原腟部鉗子、クスコ腟鏡、ヘガール頸管拡張器、キュレット。腟式の器械は、どれも先端が見えない場所に入っていく器械です。
だから、扱いの原則は3つです。
- 体内に入るものは、入れた数と出た数を必ず合わせる
- 頸管拡張器のように、細いものから太いものへ使う順に並べる
- 鉗子やキュレットの先端の欠けを、使う前と後に目で確かめる
器械を「渡すもの」ではなく「点検するもの」として見る視点を持てると、腟式手術の器械出しはぐっと落ち着きます。
乳腺の手術|腕のことまで考える
このサイトでは、乳腺の手術も産婦人科のカテゴリーに入れています。乳腺の手術は、手術が終わったあとの腕の生活まで考えて準備する手術です。
乳房切除術・乳房全摘術
腋窩(わきの下)のリンパ節を取る場面では、残す神経と取る脂肪が同じような色をしています。長胸神経、胸背神経、肋間上腕神経の3本は、ここで温存する神経です。
神経のそばでは電気メスを控える場面があるので、剥離鉗子、結紮糸、クリップを手前に集めておくと流れが変わります。
外回りは、麻酔導入の前に点滴と血圧計を健側(手術しない側)へ。郭清した側の腕は、リンパの流れが変わるからです。
腕の外転は90度を超えないようにします。
患者さんに聞かれたときに
最後の2本は、手術を受ける方に向けて書いた記事です。術前訪問や退室のときに質問されたら、説明の言葉を探す参考にしてください。
円錐切除術のあとの出血と安静
円錐切除のあとは、少量の出血が2〜3週間ほど続くことがあります。とくに術後1〜2週目は、傷のかさぶたがはがれて出血が増えやすい時期です。
痛みが軽いぶん、安静の意味が実感しにくいのがこの手術の難しいところです。「生理2日目より多い出血なら連絡を」という目安を、患者さんの言葉で伝えられるようにしておきます。
シロッカー手術を勧められた方へ
シロッカー手術を勧められた方の多くは、妊娠の途中で突然その説明を受けています。気持ちが追いつかないまま手術の日を迎える方もいます。
縛った糸は、赤ちゃんが十分に育った妊娠37週前後に抜くのが一般的です。お腹の張りや破水のときは早めに抜くこと、そのときは手術を受けたことを必ず伝えること。
ここが患者さんに届けたい2点です。
手順を動画で確認したいときに
帝王切開、広汎子宮全摘術、シロッカー法、円錐切除術とレーザー蒸散術の違い、レゼクトスコープは、YouTubeでも流れに沿って解説しています。
帝王切開は、児が出るまでと出てからで部屋の空気がまったく変わる手術です。記事で流れをつかんでから動画を見ると、その切り替わりがつかみやすいと思います。
帝王切開の前編・後編、前置胎盤の帝王切開、ダビンチの完全講義など、踏み込んだ回の一部はメンバーシップ向けに置いています。
産婦人科の手術、どこから覚えるか
ここに並べた記事を、頭から順に読む必要はありません。私が後輩に勧めるなら、この順番です。
- 明日入る手術を1本だけ読む
- 次に帝王切開。件数が多く、緊急でも入る手術なので、流れを体に入れておくと強い味方になります
- 腟から入る手術は腟式手術の器械一覧から。器械と清潔の原則が分かると、腟式子宮全摘とシロッカー法が読みやすくなります
- ロボットは緊急離脱から。手順はそのあとで十分です
私が初めて1人で器械出しに入ったのは、婦人科の腹腔鏡手術でした。ドレーピングが終わると、執刀医が何も言わずにこちらへ手を差し出しました。
何から渡せばいいのか分からず、泣きそうになったのを覚えています。最初はみんな、そこから始まります。
次にその手術が回ってきた日、このページを開いて答え合わせをしてみてください。差し出された手に、前回より迷わず器械を置けたら、それが積み重なっている証拠です。
















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