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子宮がんに進行がみられる場合などに選択される「広汎(こうはん)子宮全摘出術(Radical Hysterectomy)」は、産婦人科手術の中において最も難易度が高く、長時間に及ぶ大規模な開腹手術の一つです。骨盤の深い部分での繊細な操作と、大量出血のリスクを伴うため、器械出し看護師には高度な解剖知識と先読みのスキルが求められます。
そのため、「広汎子宮全摘出術の器械出し看護に不安がある」、「手技が複雑すぎて、手術の流れが全く分からない」と悩む新人〜3年目のオペ看(手術室看護師)も多いのではないでしょうか。
この記事では、圧倒的なボリュームと詳細なステップを踏まえた「オペ看勉強用・広汎子宮全摘出術の完全手術手順マニュアル」を解説しています。これを読めば、長い手術時間のどのような場面で、どこに注意し、どの器械を渡せばよいのかが手に取るように分かります。また、手術室看護師だけでなく、産婦人科研修医の方も参考にできる内容となっています。
【この記事で分かること】
- ✅ 広汎子宮全摘出術の詳細な手術手順
- ✅ 各ステップでの器械出し看護ポイントと必須デバイス
- ✅ 術中・術後合併症と、外回り看護師の観察ポイント
- ✅ 準広汎子宮全摘術・単純子宮全摘術・広汎子宮全摘術の違い
もし、婦人科手術を含む手術室での働き方やステップアップについて悩んでいる方は、こちらの記事も参考にしてください。
広汎(こうはん)子宮全摘出術とは?


「広汎子宮全摘出術(こうはんしきゅうぜんてきしゅつじゅつ)」とは、主に進行した子宮頸がん(Ⅰb期~Ⅱ期の一部等)に対して行われる根治的手術です。単に子宮を摘出するだけでなく、がんが周囲へ広がっている可能性(浸潤や転移)を考慮し、子宮とともに膣の一部、子宮周辺の組織(基靭帯や傍膣組織)、さらに骨盤内のリンパ節を広範囲にわたって一括切除します。
術式の違い(単純・準広汎・広汎)を理解しよう

婦人科の子宮摘出術には、切除する範囲によって主に3つのレベルがあります。これが分かれば、なぜ今回「広汎」なのかがスッと理解できます。
| 術式名 | 摘出する主な部位 | 対象となる主な疾患 | 手術の規模感 |
|---|---|---|---|
| 単純子宮全摘出術 (ATH / TAH) | 子宮本体のみ。必要に応じて卵巣・卵管。膣や基靭帯は残存。 | 良性疾患(子宮筋腫、子宮内膜症等)、初期のがんなど | 標準的。出血量は比較的少ない。 |
| 準広汎子宮全摘出術 (m-Radical) | 子宮、基靭帯の内側1/2程度、膣壁を1〜2cm程度切除。 | 子宮頸がんⅠa2期〜、あるいは子宮体がんの一部 | 尿管を完全に剥離しないため広汎よりは負担が少ない。 |
| 広汎子宮全摘出術 (Radical) | 子宮、基靭帯を骨盤壁の根本から切断、大きく膣壁(3〜4cm以上)を切除。骨盤リンパ節郭清を伴う。 | 子宮頸がん(進行期Ⅰb期〜Ⅱa期など) | 大規模。尿管の完全剥離や排尿神経の温存/犠牲など難易度が高い。 |
必ず知っておくべき骨盤内の解剖知識
広汎手術の特徴は、「尿管」と「子宮動脈・静脈」の交差部(Water under the bridge)を完全に分離しなければならない点です。ここを傷つけると重大な合併症(尿管損傷など)に直結します。
また、子宮を支えている4つの重要な靭帯(円靭帯、骨盤漏斗靭帯、仙骨子宮靭帯、基靭帯)をすべて切断しなければ、広範な摘出は実現できません。この解剖をイメージできることが器械出しの生命線です。
術前準備とアセスメント(外回り・器械出し共通)
広汎手術は麻酔時間を含めると6〜8時間、場合によっては10時間を超えることもあります。長時間手術ならではのリスクを事前に予測することが、外回り・器械出しに関わらず重要です。
アセスメントポイント:患者の心理状態と既往歴
- がんの進行度と患者の不安:進行がんの宣告、長時間手術への恐怖、今後の生活への不安が混在しています。傾聴と共感を意識し、リラックスできる環境作りに努めます。
- DVT(深部静脈血栓症)リスク評価:骨盤内手術かつ長時間の砕石位・開脚位となるため、弾性ストッキングや間欠的空気圧迫装置(フットポンプ)の準備・装着が必須です。
- 出血リスクへの備え:広汎手術では通常、500ml〜1000ml以上の出血が予想されます。交差適合試験(クロスマッチ)の完了確認、自己血や同種血輸血のルート確保(太い静脈ライン・中心静脈カテーテル等)が外回りの最優先タスクです。
準備する器械(特有の器具一覧)
広汎子宮全摘術では骨盤の奥深くまで操作するため、「ロング・カーブ(長く曲がった)」形状の特殊な鉗子類が多数必要になります。これを覚えずに手術には入れません。
【イラスト挿入位置 2】器械出し看護師のメイヨースタンド(器械台)に並んだロング鉗子類や開創器のイメージイラスト
| 名称 | 特徴と用途(どんな場面で渡すか) |
|---|---|
| 開創器 | 開腹後、腹壁を広く展開・維持するために使用。腸管を寄せるための大きなスパーテル(腸ベラ)も一緒に準備する。 |
| 塚原鉗子 (長めの強い把持鉗子) | 子宮全体や、切断予定の強靭な組織(基靭帯など)をガッチリと挟んで引っ張り上げる。先端が特徴的な曲がった形状。 |
| コッヘル類 ・各種ロング鉗子 | 骨盤深部の組織(傍膣組織やじん帯)を挟む。長めの直・曲のコッヘルやペアンサイズを必ず複数準備しておくこと。 |
| 結紮(けっさつ)用具 (縫合糸、タイダウン・結石器等) | 結紮は非常に多く、糸(バイクリルや絹糸等など)の長さを揃えて準備。深い場所での糸結び補助器(プッシャー等)も適宜。 |
| 尿管カテーテル・テープ類 | 術中に尿管の位置を特定し、避けるため(または牽引するため)の血管テープ(ベッセルループ等)を湿らせて渡す。 |
| 各種エネルギーデバイス | バイポーラ、超音波凝固切開装置(ハーモニックスカルペルやLigaSureなど)。血管処理のスピードを圧倒的に高める必須アイテム。 |
手術室セッティングと体位・麻酔導入

開腹手術であっても、膣側からの操作(子宮の引き出し、膣の縫合など)が必要になるため、患者さんは「開脚位(砕石位・分娩体位)」にセッティングされます。
- 麻酔導入:通常は硬膜外麻酔(エピ)と全身麻酔の併用です。術後の激しい痛みをコントロールするために硬膜外カテーテルを挿入します。
- 体位固定(開脚・砕石位):下肢をレッグホルダーに乗せます。
★外回りのポイント★:患者さんの膝裏、腓骨小頭部に圧迫がないか、無理に関節が引き延ばされていないかを必ず確認します!この固定不良が、術後の長期にわたる下肢麻痺(神経障害)の原因になります。 - 尿道カテーテル留置:手術中、膀胱の損傷を防ぎ、尿量を正確に測るためにバルーンカテーテルを挿入します。
- 腹部の消毒・ドレーピング:臍から恥骨結合下、さらに膣内まで広範囲に消毒液(イソジン等)をドボドボと塗布し、十分な滅菌野を構築します。
【実践編】広汎子宮全摘出術の手順マニュアル(ステップバイステップ)
ここからが、手術中の器械出しナースとして最も知りたい「具体的な手術手順のアキレス腱(重要ポイント)」です。
一連の流れと、それぞれのステップで術者が何を狙っているかを完全に理解しましょう。手術がスムーズに進むか、出血でパニックになるかは、この解剖と手順の理解にかかっています。
ステップ1:開腹と腹腔内の探査
- 皮膚・腹壁の切開:下腹部正中切開(へそから恥骨上部まで)で行われます。
器械出しのポイント:メス、電気メス(モノポーラ)、筋膜を挟むためのコッヘル鉗子をスムーズに渡します。開創器(オサリバン)で大きく術野を展開するため、ガーゼや腸ベラを手渡します。 - 腹水の採取と洗浄(ウォッシュアウト):がん細胞がお腹の中に散らばっていないか(腹水細胞診)を調べるため、開腹直後に生理食塩水でお腹の中を洗い、その液を吸引ビンで回収します。
器械出しのポイント:「生食50cc(または100cc)です」と大きなシリンジに温生食を入れ、その後の吸引管をすぐに差し出せるよう備えます。
ステップ2:後腹膜腔の展開と「尿管」の確保(テーピング)

- 円靭帯の切断:子宮を引き上げるため、最初に円靭帯(えんじんたい)をペアンで挟んで切断・結紮します。これで後腹膜が開きます。
- 尿管の描出とテーピング:子宮の横を走っている「尿管」を見つけ出します。ここを傷つけると大惨事になるため、血管テープ(ベッセルループ等)を尿管の下に通して引き上げ、安全を確保します。
器械出しのポイント:ライトアングル鉗子(直角に曲がった鉗子)で尿管の下をくぐらせるので、その先端に濡らしたテープを手渡します。
ステップ3:骨盤リンパ節郭清(リンパ組織の除去)

- リンパの除去:総腸骨動脈、内外腸骨動・静脈、閉鎖神経周囲の脂肪・リンパ組織をごっそりと取り除きます。
器械出しのポイント:非常に細かな血管(リンパ管)が無数にあるため、超音波凝固切開装置や小さなクリップ(ヘモクリップ等)、細い絹糸による細かな結紮が幾度となく繰り返されます。素早い糸渡しが求められます。
ステップ4:最大の難所「子宮動脈と尿管交差部」の手技

- 子宮動脈の切断:子宮を養う太い血管(子宮動脈)が、尿管の上を橋のように交差しています(これがWater under the bridgeと呼ばれる所以です)。この子宮動脈を尿管から剥がし、結紮切断します。
- 尿管トンネルの開放:尿管が膀胱に向かって入り込むトンネル(膀胱子宮靭帯の前葉)を開放し、尿管を完全に子宮や膣から遠ざけます。
器械出しのポイント:この部分は静脈叢が発達しており「ボコッ」と大出血しやすいポイントです!常に吸引管で術野をクリアに保ち、直角鉗子や強い結紮糸(1-0等)を即座に渡せるように手に持っておきます。
ステップ5:基靭帯(きじんたい)の切断と子宮・膣の全摘出
- 基靭帯の処理:子宮の根元を支えている強靭な筋肉・靭帯の束(基靭帯・仙骨子宮靭帯等)を骨盤の壁ギリギリのところで切断します。
- 膣壁の切断:子宮頸部から3cm〜4cmほど下の膣壁をぐるりとメスあるいは電気メスで切り離します。
器械出しのポイント:膣を一回り大きく切り取るため、ここで初めて「不潔操作」となります。膣内に触れた鉗子やメスは術野から下げ(不潔回収用のトレイを用意する)、新しい清浄な器械でその後の操作(膣断端の縫合)を行うように区別します。
ステップ6:止血・ドレーンの留置・閉腹

- 膣断端の縫合:切り離された膣の端っこを吸収糸(バイクリル等)で丈夫に縫い合わせ、膣を閉じます。
- 徹底的な止血確認とドレーン留置:骨盤の底全体がえぐり取られたような状態になるため、洗浄を行い、じわじわとした出血がないか確認します。滲出液やリンパ液を排出するためのドレーン(J-VACやペンローズ等)を留置します。
器械出し・外回りのポイント:ガーゼカウント(器械やガーゼがお腹に残っていないか)の徹底。大きなガーゼを使用しているため、枚数を絶対に間違えないようにします。その後、層状に腹壁を縫合して手術終了です。
術中合併症の対応シミュレーション
広汎手術において、特に気を付けるべき三大合併症が大出血、尿管・膀胱損傷、直腸等の腸管損傷です。緊急時の対応アクションを整理しておきましょう。
| 合併症の種類 | 症状と発生要因 | オペ看(器械出し・外回り)の対応アクション |
|---|---|---|
| 骨盤底からの大量出血 | 深い静脈叢や腸骨動脈を傷つけることで、突然「ドクドク」「ボワー」と湧き出る出血。 | 【器械出し】即座に太い吸引管を押し当て、バイポーラや止血鉗子、ゼラチンスポンジ(ゼルフォーム・タコシール等)を即座に渡す。 【外回り】輸液全開、医師への応援要請、ガーゼの大量補給。 |
| 尿管や直腸の穿孔・損傷 | 癌が周囲の臓器(膀胱や腸)に癒着している場合、剥がす際に誤って壁に穴が開いてしまう。 | 【器械出し】尿管損傷の場合は尿管ステントや細かい吸収糸(5-0等)を用意。腸管損傷の場合は「不潔操作」となるため、直ちに修復用の別の器械セットを用意する。 |
| 神経損傷(術後) | 砕石開脚位による腓骨神経麻痺など。 | 【外回り】術中に長時間の体位圧迫が続いていないか、1〜2時間ごとに体位の微調整・クッション確認を行う。 |
術後ケアと病棟への引き継ぎ項目(リカバリー)
手術終了後から病棟に引き継ぐまでの間、特に「排尿・排液・痛み」の3点に絞って観察を行います。
広汎子宮全摘出術は、骨盤の自律神経(とくに排尿を司る骨盤内臓神経)を少なからず犠牲にするため、特徴的な後遺症があります。
- 排尿障害(神経因性膀胱):術後、残尿感が強く自力でおしっこが出なくなる確率が非常に高いです。尿道カテーテルが抜けた後も、自己導尿の指導が必要になるケースがあります。
- 下肢リンパ浮腫:骨盤リンパ節郭清を行ったため、足の付け根から下(太ももやふくらはぎ)が異常にむくむ後遺症です。弾性ストッキングの着用やマッサージ、スキンケアが一生涯必要になります。
- 術後出血とドレーンの性状:J-VAC等のドレーン排液が急激に赤(血性)になっていないか、ガーゼカウントは合致しているかを必ず病棟看護師へ申し送ります。
まとめ:広汎手術はオペ看の「解剖理解」が試される!
いかがでしたでしょうか。今回は、手術室看護師(オペ看)1〜3年目の皆さんに向けて「広汎(こうはん)子宮全摘出術(Radical Hysterectomy)の徹底解剖と器械出しマニュアル」を解説しました。
器械出し看護師にとって、この手術は「今、どこの靭帯を切っているのか」「この血管は尿管の上か下か」といった三次元の解剖図が頭に入っているかを試される究極の婦人科手術です。
最初のうちは術野が深く、暗くて全く見えないかもしれません。しかし、手順を予習し、術者の目線に合わせて「光を当てる(無影灯の調整)」「視野を開く(開創器の調整)」ことができるようになれば、必ず「頼りになる器械出し」へと成長できます。
この記事を何度も読み返し、分からないことがあれば、一人で抱え込まずに先輩ナースや医師に質問しながらステップアップしていきましょう!
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