ダヴィンチ一強の時代が終わる⁉︎手術支援ロボット市場の“新しい流れ”

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手術室の片隅に設置された大きなロボットアーム。術者は少し離れた場所のコンソールに座り、拡大された3D映像を見ながら、まるで自分の手の延長のように鉗子を動かす――。
この光景は、今や多くの急性期病院で見慣れたものになりました。

米国Intuitive Surgical社が開発した手術支援ロボット「ダヴィンチ」は、術者がコンソールからロボットアームと内視鏡を操作し、高精細な3D視野と多関節鉗子を用いて繊細な手術を行えるシステムです。泌尿器科、消化器外科、婦人科など、さまざまな診療科で導入が進み、ロボット手術の“標準的な選択肢”として定着しつつあります。

日本では、国立がん研究センターなどの基幹病院を中心に早期から導入が進み、2020年代に入ると多くの急性期病院へと普及しました。世界全体では、2023年時点で年間1,200万件以上の手術がダヴィンチで行われていると報告されており、まさにロボット支援手術の代名詞といえる存在です。

国内に目を向けても、ダヴィンチの存在感は圧倒的です。日本では180施設以上が導入しており、三次救急を担う病院だけでなく、地域の中核病院にも広がっています。泌尿器科や消化器外科の一部では、「ロボット手術ができるかどうか」が患者さんの病院選びに影響する時代になってきました。

多くの手術室で“特別な装置”から“標準設備”へと位置づけが変わったダヴィンチ。その普及は、日本の外科医療の風景を確実に変えています。


広がり続ける日本のロボット手術市場

日本の手術支援ロボット市場は、アジア太平洋地域の中でも大きな規模を持つとされています。2024年時点で約3〜5億ドル規模と推計され、2030年頃にかけて年率8〜12%で成長すると見込まれています。

この成長を支えている背景には、いくつかの理由があります。
まず、高齢化に伴う手術件数の増加。次に、患者さんの負担を減らし、回復を早める低侵襲手術への強いニーズです。さらに、ロボット手術の保険適用が徐々に拡大していることや、国として高度医療技術の導入を後押ししている点も大きな要因です。

がん治療を中心に、前立腺がんや腎がんだけでなく、胃がん・直腸がん、婦人科、胸部外科へと適応が広がっています。加えて、外科医の高齢化や若手医師不足への対応として、ロボット手術が「教育ツール」としても期待されている点は、現場で働く私たちにとっても重要な視点でしょう。

ロボット手術の導入は、病院のブランド力や患者集客、医師の採用・定着にも影響すると言われています。ダヴィンチを中心としたロボット手術は、今後も日本の外科医療の中で存在感を増していくと考えられます。


国産ロボットの本格参戦

メディカロイド社の「hinotori(ヒノトリ)」

こうした成長市場に、日本発の手術支援ロボットが本格的に参入してきました。

2020年に発売された、メディカロイド社の「hinotori(ヒノトリ)」は、日本初の本格的なダヴィンチの競合機として注目を集めています。
hinotoriの特徴は、日本の手術室環境を強く意識した設計です。手術室の広さや動線を考慮したアーム構造、術台への取り付けやすさなど、「現場で使いやすい」工夫が随所に見られます。スペースに余裕のない手術室でも運用しやすい点は、オペ看の立場から見ても大きなメリットといえるでしょう。

すでに大学病院やがん専門施設での使用が進み、泌尿器科領域を中心に保険適用も拡大しています。

リバーフィールドテクノロジーズ社の「Saroa(サロア)」

さらに注目されているのが、リバーフィールドテクノロジーズ社の「Saroa(サロア)」です。Saroaは、鉗子操作時の触覚・力覚フィードバックを術者に伝える機能を備えており、組織の“手応え”を感じながら操作できる点が特徴です。血管や神経が密集する場面での安全性向上が期待されています。

国産ロボットは、価格面だけでなく、保守対応の速さや日本語インターフェースなど、現場目線の強みを持っています。「ダヴィンチ一択」だった時代から、選択肢が増えてきたことは大きな変化です。


海外メーカーも続々参入

メドトロニック社の「Hugo RAS System」

国産勢だけでなく、海外メーカーも日本市場に本格参入しています。

メドトロニック社の「Hugo RAS System」は、必要なアーム数を組み合わせて使えるモジュール型設計が特徴です。初期費用や運用コストを抑えやすく、手術室のレイアウトに柔軟に対応できる点が評価されています。

視線でカメラを操作できる「Senhance(センハンス)」

また、「Senhance(センハンス)」は、視線でカメラを操作できるアイトラッキング機能や、触覚フィードバックを備えた独自性の高いシステムです。比較的コンパクトで価格帯も抑えめなため、中規模病院での導入が進んでいます。

こうした海外製ロボットの登場により、日本市場は「一社独占」から「複数機種を比較する時代」へと移行しつつあります。


ダヴィンチは揺らぐのか?

現時点では、導入台数や症例数でダヴィンチが優位である状況は変わっていません。ただし、国産・海外の競合機が増えたことで、病院側は価格、機能、サポート体制、長期的な運用コストを比較するようになっています。

メーカーによるデモや試験導入が行われるケースも増え、ロボット手術市場はまさに過渡期にあります。この競争は、ダヴィンチ側にとっても改良や新モデル開発の原動力となり、市場全体の技術進化を加速させています。


手術室看護師として考えたい未来

今後の鍵となるのは、適応術式の拡大、AI技術の導入、そして価格戦略です。ロボット手術がさらに広がれば、私たち手術室看護師にも、機種ごとの特徴理解やセッティング、トラブル対応など、より高い専門性が求められるようになります。

競争が進むことは、患者さんにとっても、医療者にとっても決して悪いことではありません。選択肢が増え、より安全で質の高い手術が実現する可能性が広がるからです。

ダヴィンチが切り開いたロボット手術の時代は、今、新たなフェーズに入りました。その変化の最前線に立つ手術室で、私たち看護師が果たす役割も、これからますます重要になっていくでしょう。

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