個人的に印象に残っている手術と、看護の深さ

オペ看勉強まとめ
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看護師として働いていると、日々多くの患者さんや手術と向き合うことになります。その中で「印象に残る瞬間」というのは意外にも細かな出来事の積み重ねであり、忘れられないシーンとして心に刻まれていきます。私自身、手術室看護師1年目の頃に経験した出来事が、今でも鮮明に思い出されることがあります。

それは「急ぐ帝王切開の手術」と「術前訪問での患者さんとの出会い」という二つの場面です。どちらも看護師としての自分を見つめ直し、患者さんとどう向き合うかを考えるきっかけとなりました。

今回は、その体験を通じて学んだ「看護の深さ」について書いてみたいと思います。

急ぐ帝王切開で学んだこと

突然始まった朝の手術

1年目のある朝、手術室に突然「帝王切開の緊急手術が入る」と連絡が入りました。時間は8時前。

まだ手術の準備も整っておらず、ベッドも、機械も、パソコンの立ち上げすらできていない状況でした。けれども患者さんはすでに病棟から搬送され、まさに「申し込みと同時に手術室に入る」ほどのスピード感で運ばれてきたのです。

妊婦さんとお腹の赤ちゃんの命を一刻も早く守るために、清潔野を作る人、器械を準備する人、麻酔を立ち上げる人…全員が同時進行で動き出しました。

患者さんをベッドに移乗するのとほぼ同時に、麻酔薬が投与され、先生が手洗いを終えたかと思うと切開が始まる。全てが並行して行われる「秒単位の現場」でした。

何もできなかった1年目の自分

そんな状況の中で、私はと言えばほとんど何もできませんでした。帝王切開の手術を見たのは数えるほど。

清潔野の作り方や薬の準備の流れも頭では知っていても、緊迫した場面で動ける経験も余裕もありませんでした。

むしろ狭い手術室の中でただ立っているだけで、自分が邪魔になっているのではないか…と感じていました。

それでも、手術は無事に終わりました。母子ともに救われ、先生方の連携や先輩看護師の素早い動きに「すごい」と心から思ったのを覚えています。そして同時に、「私はここで何ができるのだろう」という大きな問いが胸に残りました。

術前訪問で気づいたこと

初めての患者訪問

もう一つ、忘れられないのは術前訪問での出来事です。術前訪問とは、手術を受ける患者さんの病室を訪れてお話を伺い、不安や疑問を確認したり、手術前に必要な説明をする場面です。1年目の私はプリセプターに同行して、初めて患者さんに直接説明をしました。

その日は婦人科の手術を予定されている患者さんで、手術の前日。「指輪やピアスなどの金属類は外してくださいね」「コンタクトも外してきてくださいね」といった、比較的事務的な説明をしていました。

静かに涙を流す患者さん

ところが、説明の最中に患者さんが静かに涙を流されました。声を上げることもなく、ただ目から涙があふれ続ける。その姿を目の前にして、私は言葉を失いました。手術室の看護師として「説明すること」はできても、その方の心の中にある不安や恐怖に、どう寄り添えばよいのか分からなかったのです。

プリセプターと相談し、その場での説明は一度中断。改めて後日、気持ちが落ち着いたタイミングで再訪問し、必要な説明を行いました。しかし、あの時の「患者さんの涙」と、それに対して何もできなかった自分の無力感は、今でも鮮明に覚えています。

看護の深さを考える

経験が支える寄り添い

あの経験から、「看護は技術や知識だけではない」と強く感じるようになりました。もちろん医療の安全を守る技術は大切です。しかし、患者さんの心に寄り添うには、自分自身の人生経験や人との関わりの積み重ねが大きく影響するのだと気づきました。

例えば、患者さんが流す涙の意味。そこには「命に関わる不安」「家族への思い」「自分自身の未来への恐れ」など、言葉にできない感情が含まれています。それを想像し、受け止めるには、看護師としての知識以上に「人としての経験」や「感性」が必要だと感じました。

未熟さと成長の入り口

1年目の私は未熟で、患者さんの気持ちを十分に理解することはできませんでした。しかしその「できなさ」こそが、自分を成長させるきっかけになりました。看護は一人で完結するものではなく、チームで支え合うもの。患者さんを支える力も、少しずつ積み重ねていくもの。そう気づいた時、少しだけ前に進めた気がしました。

今振り返って思うこと

あの日の手術が教えてくれたもの

緊急帝王切開の手術で何もできなかった経験は、今振り返れば「現場のスピード感と命の重さ」を体で学んだ瞬間でした。あの時の悔しさがあるからこそ、私は今も「準備の大切さ」と「どんな場面でも動ける柔軟さ」を意識して働いています。

涙の意味を忘れない

術前訪問で患者さんが流した涙。それを前に立ち尽くした自分を忘れないことで、「患者さんの心を想像しよう」と自分に言い聞かせています。あの経験は、知識だけではなく「人と向き合う姿勢」が看護には必要だと教えてくれました。

まとめ

看護師として働いていると、忘れられない手術や患者さんとの出会いがあります。それは「成功した手術」や「うまくできた看護」だけではなく、むしろ「何もできなかった」「無力さを痛感した」場面こそ心に深く残るのだと思います。

緊急帝王切開で感じた命の重み、術前訪問で出会った患者さんの涙。どちらも1年目の私にとっては大きな衝撃でしたが、その体験が今の看護観の土台となっています。

看護は、技術や知識の習得にとどまらず、患者さんの人生や心に寄り添う深さがあります。未熟さを受け止め、経験を積み重ねていく中で、少しずつ看護師としても人としても成長していけるのだと思います。


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